怪奇幻想

キム・ジウン『箪笥』(장화, 홍련、2003)

韓国のホラー映画リストによく上がる作品『箪笥』をようやく観た。監督は『人狼』のキム・ジウン。導入は屋敷ものだが、だんだんと流産や生理のモチーフが挿入され、ボディホラーの趣を呈してくる。決定的な謎解きに至るまでのサスペンスが巧みで、人間関係…

グレゴリー・プロトキン『パラノーマル・アクティビティ5』(Paranormal Activity: The Ghost Dimension、2015)

シリーズ1・2・3、呪いの印と来て、4は未見で5へ。ケイティとクリスティの姉妹の幼少期を描いたシリーズ3に接続している。 少女リーラと父母が引っ越して来るところから始まる。クリスマスを迎え、父の弟がやって来て長逗留することに。そこに前の住人が残し…

ウェス・アンダーソン『奇才ヘンリー・シュガーの物語』(Roald Dahl's The Wonderful Story of Henry Sugar、2023)

ロアルド・ダール原作の短篇から四つを短篇映画シリーズにしたもの。邦題は『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』とも。動きを最小限にした演劇的な構成で、いずれも作家自身が途中で顔を出し、執筆中の書斎から観客に語りかける。 『奇才ヘンリー・シュガ…

クリストファー・ランドン『パラノーマル・アクティビティ/呪いの印』(Paranormal Activity: The Marked Ones、2014)

『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ第4作。ケイティとクリスティの姉妹をめぐる3作目までの物語からいったん離れ、メキシコ系のコミュニティへと舞台は移る。定点カメラではなく小型の手持ちカメラでの撮影へと変化。 主人公ジェシーの高校の卒業式か…

パーカー・フィン『Smile スマイル』(Smile、2022)』

精神的な問題を抱える女性を主人公にするホラー映画では、以前に依存症を描いた『エンドレス・エクソシズム』を見たが、こちらは自死遺族のトラウマに焦点を当てた作品。 精神科救急医療を担当している医師のローズ(ソシー・ベーコン)の元に、脅えきった若…

リドリー・スコット『エイリアン』(Alien、1979)

ボディ・ホラーの文脈でよく聞くものの、見たことはなかったので初めて配信で鑑賞。 エイリアンに襲われるシーンより、規定のプロトコルを自己判断で無視し、さらに乗組員間の連携を失うという事故発生の経緯の方がむしろ恐ろしい。そしてリプリー(シガニー…

ユン・ジュンヒョン『トンソン荘事件の記録』(마루이 비디오、2023)

舞台は釜山。1992年、旅館〈トンソン荘〉で若者が恋人を殺害する事件が起こった。犯人はその一部始終を撮影していたが、検察庁に保管されているそのビデオテープには、ありえないものが映っているという噂がある。2019年、取材班がその映像について調べる過…

ジェームズ・ガン『スリザー』(Slither、2006)

" data-en-clipboard="true"> 米国の田舎町郊外の森に隕石が墜落。そこに付着していた地球外生命体が孵化し……。 地球外生命体に寄生されると、ペニスを思わせる触手が腹から生え、それを女の腹に突き刺すことで授精するという設定。同じようなパターンだしも…

ヤン・シュヴァンクマイエル『ファウスト』(Lekce Faust、1995)

ファウスト伝説を脚色した実写映画。チェコの街頭でビラを配る二人組の男。ただ地図に赤い印が付されているだけのその地図を受け取った主人公は、その時は捨てたものの、自宅の郵便受けにも同じものを見出し、その場所に赴くことにする。廃墟のような建物の…

ウィリアム・ブレント・ベル『邪悪は宿る』(Separation、2021)

漫画家の夫(ルパート・フレンド)と弁護士事務所で働く妻。夫はかつてヒット作を生んだものの、今や事実上の無職である。妻の父はやり手の弁護士で、妻はそこで働いて一家を養っている。夫の方はいつまでたっても大人になれず、娘の世話どころか、怪我をし…

オリヴァー・ヒルシュビーゲル『インベージョン』(The Invasion、2007)

" data-en-clipboard="true"> 『es[エス]』の監督による地球外生命体侵略もの。原作はジャック・フィニー『盗まれた街』(1955)である由。ニコール・キッドマン、ダニエル・クレイグら青い目の俳優を集め、色の失われた街で瞳の青が印象的に映る。 米国内…

ペンエーグ・ラッタナルアーン『6IXTYNIN9 シックスティナイン ザ・シリーズ』(2023)

タイの全6話のドラマシリーズ。小包の誤配をきっかけに次々に死者が増えてゆくブラックコメディで、Pen-Ek Ratanaruang 監督が1999年の同名映画をセルフリメイクしたもの。スマートフォンと公衆電話、Windows95あたりが搭載されていそうなレトロなデスクトッ…

ダリオ・アルジェント『サスペリア』(Suspiria、1977)

ドイツを舞台にしたイタリア映画だが、Amazon Prime Video で配信されている字幕版は英語音声のため、何とも奇妙な鑑賞体験となった。 アメリカからドイツのバレエ学校に留学するスージー(ジェシカ・ハーパー)だが、フライブルクに着いた途端に土砂降りと…

フェデ・アルバレス『死霊のはらわた』(Evil Dead、2013)

『ドント・ブリーズ』シリーズのフェデ・アルバレスが、サム・ライミ監督の1981年の同名作品をリメイクしたもの。サム・ライミは脚本と製作に回っている。オリジナルは未見だが、ジャンプスケアや文字通り血の雨が降る派手な演出、そして恐怖というより不快…

ダニエル・マイリック、エドゥアルド・サンチェス『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(The Blair Witch Project、1999)

ファウンド・フッテージホラーの有名作品なので、今さらながら見てみた。後からこの手法はもっと洗練されてきたこともあり、今なら話題になることもなさそうで、先行作の悲哀を感じる。ロケ地はメリーランド州の国立公園である由。ブレアの魔女の伝説を取材…

シルヴァン・ホワイト『スレンダーマン 奴を見たら、終わり』(Slender Man、2018)

ネット上のミーム「スレンダーマン」に、ボディホラーの要素を交えた映画。中学生向けに作られたようで、恐怖描写は控えめだが、画面に映らない部分への妄想をたくましくすると別の側面も見えてくる。 スレンダーマン 奴を見たら、終わり (字幕版) ジョーイ…

エドガー・ライト『ラストナイト・イン・ソーホー』(Last Night In Soho、2021)

黄金の60年代に憧れる少女エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は、ロンドンの服飾学校から合格通知を受け取り、コーンウォールの田舎を出る。彼女の母もかつてロンドンに暮らしたことがあったが、大都市に飲み込まれ、エロイーズが7歳の時に命を絶ってい…

ルパート・ウェインライト『ザ・フォッグ』 (The Fog、2005)

ジョン・カーペンター監督の同名作品(1980)のリメイクホラー。 アントニオ島という小さな島。港町の建設の功労者として称えられる四人の男を記念した像が作られ、除幕式を迎える日、海上から濃い霧がやってくる。ちょうど時を同じくして、町を出ていたエリ…

マイケル・チャベス『ラ・ヨローナ〜泣く女〜』(The Curse of La Llorona、2019)

死霊館シリーズのスピンオフのような位置づけで、ウォーレン夫妻は登場しないが、人形アナベルを封印した神父がちょっと登場する。『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』(2021)のマイケル・チャベスの長編初監督である由。 〈ラ・ヨローナ〉とはメキシコの伝…

ゲイリー・ドーベルマン『アナベル 死霊博物館』(Annabelle Comes Home、2019)

アナベルシリーズの脚本家が初めてメガホンを撮った作品。 ロレインとエドのウォーレン夫妻が自宅の保管室に封印した呪われた人形アナベル。一年後、夫妻の留守に、娘ジュディのベビーシッターを頼まれたメアリー・エレンの友人ダニエラが保管室に入り込んで…

テリー・サムンドラ『漆黒の井戸の底から』(Kaali Khuhi、2020)

ヒンディー語ホラー映画。90分と尺は短いが、インドの農村(どの地域かは分からなかった)を舞台にしたフェミニストホラー、というより家父長制ホラーという趣のフィルム。インド製作のホラーは初めて観た。 町で暮らしている夫婦と、娘シヴァンギ。父の母が…

エヴァン・スピリオトポウロス『アンホーリー 忌まわしき聖地』(The Unholy、2021)

1845年、マサチューセッツのバニフィールドという町。のっけから処刑される魔女の視点で始まる。目の部分だけ開いた何かを顔に被せられ、吊り下げられて火を放たれる。魔女の魂は小さな陶器の人形に封じられる。これはkern baby と呼ばれるお守りの人形で、…

中島哲也『来る』(2018)

序盤に田舎の親類の集まりと、結婚式のシーンが交互に出て来て、表面上は和やかなのにものすごく気持ちの悪い感じが続く。極めつけは新居披露のホームパーティーで、外面ばかりよい夫(妻夫木聡)と、その縁者の中に放り出された妻(黒木華)。 夫の田舎では…

ウィリアム・フリードキン『エクソシスト』(The Exorcist、1973)

カトリックの悪魔祓いの話だが、アザーンと共に太陽の色が変わってゆく印象的なオープニングだ。誤ってほかの映画を再生してしまったのかと思ったが、高齢の神父はイラク北部の遺跡で発掘調査に参加しているという設定だった。彼は帰国前、悪霊の頭部を象っ…

清水崇『犬鳴村』(2020)

都市伝説に取材したホラー映画。発電用ダム建設で水没した犬鳴村には、日本国憲法の通用しない前近代的世界が残ると噂される。 橋のたもとの電話ボックスに、深夜2時になると電話がかかってくる。それに出た者は、通行不能となっている犬鳴村へのトンネルを…

オーレン・ペリ『パラノーマル・アクティビティ』(Paranormal Activity、2007)

シリーズ2・3を先に観て、数か月空けてようやく1を観た。呪われた姉妹のうち、姉とそのパートナーの話だが、超常現象の撮影のために設置されるカメラは一台だけで、後のシリーズ作品と比べて本当にミニマルな作り。恐怖の演出も最小限にしてあり、シリーズ作…

タイ・ウェスト『Pearl パール』(Pearl、2022)

『X エックス』シリーズ第二作、老婆パールの若き日を描く。時代背景は『X エックス』の60年前、第一次世界大戦中の1918年で、夫ハワードは出征しており、しかもスペイン風邪の流行中。 happinet-phantom.com 家畜小屋の扉が開いて映画が幕を開けるが、パー…

莊絢維『人面魚 THE DEVIL FISH』(人面魚:紅衣小女孩外傳、2018)

台湾の都市伝説ホラー〈赤い服の少女〉シリーズ、第三作にして前日譚。人間を山に誘い込む〈魔神仔(モシナ)〉という山怪は、シリーズ第二作で虎の姿の神〈虎爺〉によって鎮められる。その時に神降ろしをし、虎爺を自らに憑依させて戦った若い童乩(タンキ…

タイ・ウェスト『X エックス』(X、2022)

3月に読んだホラー映画の女性表象についての批評に、父権的な象徴的秩序をさげすみ転覆する力を持った、近年のホラー映画に表れる「Monstrous feminine」の例として『X エックス』と『Pearl パール』も上がっていた。 theinitium.com ちょうど『Pearl パール…

デヴィッド・ブルックナー『ザ・リチュアル いけにえの儀式』(The Ritual、2017)

英国ホラー。大学時代の悪友たちが旅行の計画を立てる。その矢先、立ち寄ったコンビニで強盗に襲われ、中の一人が殺害されてしまう。自分ひとりだけ身を隠し、目の前でむざむざ友人を殺されたことに罪悪感を抱き続ける主人公。 半年後、亡き友人の追悼のため…