パーカー・フィン『Smile スマイル』（Smile、2022）』

　精神的な問題を抱える女性を主人公にするホラー映画では、以前に依存症を描いた『エンドレス・エクソシズム』を見たが、こちらは自死遺族のトラウマに焦点を当てた作品。

　精神科救急医療を担当している医師のローズ（ソシー・ベーコン）の元に、脅えきった若い女性がやって来る。彼女は数日前に知人の自殺を目撃していたが、知人や見知らぬ人の姿をとって、邪悪な笑みを浮かべて「それ」が姿を現すのだと訴える。ローズはトラウマによる急性症状だろうと見当をつけながら話を聞くが、女性は急に人が変わったようになり、にやりと笑いを浮かべながら喉をかき切って自殺する。

　伝染する呪いの話だが、ローズ自身も自殺遺児で、その事件を契機に、周囲から母の病気と死について蒸し返されることになる。

　肝心な時に腰が引けてセラピストに丸投げしようとする婚約者や、嫌みったらしい姉夫婦に呪いを感染させてやればよかろうと思うのだが、主人公は精神科医の道を選んだだけあって、自分を最後に呪いを断ち切ろうと試みる。

　怪奇描写もあるのだが、映像表現もさることながら、心的外傷につけこもうとするという怪異の設定が何とも後味が悪い。

　次第に現実の境界が曖昧になってゆくローズは、甥の誕生パーティーに出るために姉の家を訪ねる。もらったプレゼントの箱を皆の前で子供が一つ一つ開けてゆくシーンが不気味だ。お約束どおり、主人公の贈った箱からはとんでもない物が出て来て、精神状態を疑われることになる。こうして招待客全員の前での開封の儀式はアメリカでは一般的なのかもしれないが、金額の相場を把握した上で、保護者の顰蹙を買わずかつ子供にも受けるような贈り物を選ぶことが絶対にできないタイプの人間にとっては、ほぼ晒し者に等しく、耐え難い時間ではなかろうかと、他人事ながら動悸がしてきた。

zacco-q.hatenablog.com

SMILE/スマイル [Blu-ray]

スマイル