カーニット・マンデル『リール戦争 奪われたパレスチナの記録』(A Reel War: Shalal、2021)

 製作者のカーニット・マンデルは、イスラエルアーカイブ整理に携わる女性。大量のリールを確認するうち、未編集の映像を発見する。パレスチナの古い記録だが、撮影者も正確な撮影時期も不明だ。1982年にベイルートを占領した際、そこでPLO公文書館から押収されたフィルムの一部だと思われる。カーニットはPLOアーカイブへのアクセスを試みるのだが……。

 56分の短篇。アジアンドキュメンタリーズで配信。

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 押収されたアーカイブ映像は、イスラエル公文書館に所蔵されていると伝えられる。まずは正攻法で閲覧を申請するが、返事はない。電話で問い合わせたところ、申請許可は下りていないとだけ聞かされる。繰り返し問い合わせても、なかなか担当者につないでもらえず、最後に館長との通話に成功するが、返って来たのは「そのようなアーカイブは当館には所蔵されていません」という答えだった。オスロ合意に基づいてパレスチナに返却されたという。オスロ合意の際にイスラエル側で交渉に当たった人物に取材するが、アーカイブについては交渉に上らず、記録もないとの返事。

 ほかにイスラエルの歴史研究者や当時を知る人々、さらにパレスチナの映画監督や映像研究者にも取材をしている。パレスチナ人にとっては当時の生活の貴重な記録であり、返却しないならせめて公開して誰もがアクセスできるようにしてほしいとの切実な願いが語られる。イスラエル側での取材の過程では、広く知られた戦争の映像が、別の土地で実行された陽動作戦の記録だったことが判明。それを知らされた取材対象者が「騙されていたのか」と愕然とする場面もある。

 国防軍の立場からは、PLOアーカイブはあくまで機密情報であり、ただの生活風景に見えてもプロパガンダ目的で製作された映像だとの見解が示される。結局、アーカイブの所在は判明せず、散佚したのかどこかに保管されているのか、すでに破棄されているのかも分からないままだ。2018年、ネタニヤフ首相により、公文書館の機密保持期間が70年から90年に変更された。