モーリー・スチュアート『兵役拒否』 (Objector、2019)

 パレスチナ占領に反対し、良心的兵役拒否を訴える19歳のイスラエル人女性アタルヤ(Atalya Ben-Abba)。彼女を中心に、兵役拒否者たちの運動を追ったドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズ配信。

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 アタルヤの家族は、祖父を筆頭にみな元軍人。イスラエルの防衛に貢献することに誇りを抱いている。しかしアタルヤは、占領に加担することに疑問を抱く。ヨルダン川西岸の入植地に足を運び、パレスチナの住民から話を聞き、イスラエル軍が破壊した家屋を目にする。パレスチナ側の団体がスタディツアーのような形で現地を案内しているようだ。現状を知ってもらうための受け入れだが、こうした現地体験は、占領だと認めない立場のイスラエル人にとっては、パレスチナプロパガンダだということになってしまうのだろう。

 召集日、彼女は出頭して拒否を申し出、軍事刑務所に収容される。110日間にわたる拘留の後、良心委員会の審査を受けることになる。フィルム内で再現された審査では、兵役免除の可否を決定する面接官は、占領反対と兵役免除を二者択一の問題として、いずれかを選ぶようアタルヤに迫る。あくまで占領反対を貫いた彼女は、兵役免除は認められないが、態度に問題ありとして「兵役不適格」で釈放される。

 プロデューサーはアタルヤの兄のアミタイ(Amitai Ben-Abba)、サンフランシスコ(当時)を拠点とする映画製作者、作家。撮影クルーの共通語が英語のためだろう、家族の会話もカメラの前では英語だ。獄中のアタルヤと電話するシーンはヘブライ語。両親は兵役も重要な経験だとして説得に努めるが、最終的にはアタルヤの行動を支持する。祖父だけは最後まで「おまえの母親は軍人になりたがったのに、まったく若い者の考えることは理解できない」と言うものの、孫の主張は受け入れないまでも反対はしない。

 兵役拒否者のジェンダーでは女性の比率が高いとのこと。服役年齢が18歳のため、拒否者はみな若い。従って、「まだ現実が分かっていない」と鼻で笑われることもある。収監から解放された拒否者は、今度は年下の当事者を支援し勇気づける側に回る。また、占領に反対する立場は同じでも、軍隊の中に入ることで、内部からの変革を求めることができるとして兵役に赴く者もいる。

 最後はアタルヤら兵役拒否者のグループが行った街頭活動の映像。「ここはユダヤ人の国で左翼の国じゃない」「左翼はベルリンへ行け」と叫んでつかみかかったり、プラカードを奪って破壊したりする人々に妨害されるが、皆で発言者を囲んで守るように立つことで、非暴力に徹して活動は無事終了する。製作から5年後の現在は、恐らくこうした活動もより困難になっているだろう。

 映画の公式サイトでは署名や寄付も募っている。

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