読書

サタジット・レイ『ユニコーンを探して─サタジット・レイ小説集』(内山眞理子訳、筑摩書房、1993)

サタジット・レイの短編小説集。これは児童文学として書かれたものではなく、大人向けの内容だ。落ちのあるユーモア小説からダークな怪奇小説、そしてチベットを舞台にしたファンタジーまで、すべてベンガル語からの翻訳とのこと。 ユニコーンを探して―サタ…

サタジット・レイ〈探偵フェルダー〉二作

" data-en-clipboard="true"> サタジット・レイ『黄金の城塞』(西岡直樹訳、石踊紘一絵、くもん出版、1991) サタジット・レイ『消えた象神 – ガネーシャ』(西岡直樹訳、山本明比古絵、くもん出版、1993) 映画監督として知られるサタジット・レイが小説を…

マーク・オコネル『トランスヒューマニズム: 人間強化の欲望から不死の夢まで』(松浦俊輔訳、作品社、2018)

原著は2017年。16頁より二箇所をメモ。 われわれが未来に期待を抱くなら――自分たちに未来のようなものがあると思うなら――それは大部分、われわれが自分たちのマシンを通じて達成するものに依拠している。その意味でトランスヒューマニズムとは、われわれが主…

陳春成『夜の潜水艦』(大久保洋子訳、アストラハウス、2023)

夜の潜水艦 作者:陳 春成 アストラハウス Amazon 1990年生まれ、福建省泉州在住の若手男性作家の短篇集。収録作品は8編。どうしようもない現実に別のレイヤーを設定し、想像の筆で自分だけの世界を具象化する。動植物から建築物まで、細かく風景を再現する観…

林芙美子『浮雲』

浮雲 (新潮文庫) 作者:芙美子, 林 新潮社 Amazon 舗装路から投げ出されたようなとりとめのない行き当たりばったりの男女の戦後は、「安南」生活の「富豪の邸宅の留守中に上り込んでゐるやうな不安で空虚なもの」の残影のようでもある。 それにしても富岡とい…

Karina Robles Bahrin《The Accidental Malay》(Epigram Books、2022)

The Accidental Malay (Epigram Books Fiction Prize Winners) (English Edition) 作者:Bahrin, Karina Robles Epigram Books Amazon シンガポールの出版社から刊行された、マレーシア人作家による英語の長編小説。 マレーシアの肉乾(ポークジャーキー)で…

ヤンシィー・チュウ(圷香織訳)『夜の獣、夢の少年』

ヤンシィー・チュウ(Yangsze Choo/朱洋熹)《The Night Tiger》(2019)。 英領マラヤはイポーとその近郊を舞台にしたファンタジー小説。ホルマリン漬けの指と、マラヤに伝わる人虎(weretiger)の伝説をめぐって、物語はそれぞれ名前に智と仁という字を持…

劉育瑄『身為在台灣的新二代,我很害怕』

劉育瑄『身為在台灣的新二代,我很害怕』(台北:創意市集、2020) www.cite.com.tw 電子書籍(Readmoo讀墨電子書)にて。 著者の劉育瑄は刊行当時(2020年10月)22歳、台湾生まれで母がカンボジア出身の広東系華人という「新二代」だ。「新二代」とは、台湾…

徐嘉澤『次の夜明けに』(三須祐介訳、書肆侃侃房、2020)

徐嘉澤(三須祐介訳)『次の夜明けに』(書肆侃侃房、2020)。原題は『下一個天亮』、台湾の二二八事件に始まる白色テロの記憶に始まり、祖父・息子・孫の三世代がそれぞれ台湾現代史を自分の身に引き受けて生きてゆくさまが描かれる連作短篇集。 二二八事件…

郝景芳『人之彼岸』

郝景芳『人之彼岸』(北京:中信出版社、2017年) 人は此岸に、AIは彼岸にあり、彼岸を遥かに望むことで此岸を観照する。 ――郝景芳「前言」 「折りたたみ北京」の郝景芳(ハオ・ジンファン)による、AIをテーマにした六篇のSF小説と二篇のエッセイを収める最…

謝裕民『m40』

謝裕民『m40』(シンガポール:新加坡青年书局,2009年) シンガポールの中国語作家、謝裕民(1959生)の中篇小説。主人公「おまえ」は四十歳になったばかりで、子供が二人おり、妻ともほどよくセックスしていて、仕事もまあなんとかなっており、身体には多…

王盛弘編『九歌106年散文選』

王盛弘編『九歌106年散文選』(台北:九歌、2018年) 台湾の「散文」という概念は、日本の随筆やエッセイとは必ずしも輪郭が一致しないように思う。台湾の場合、主な文学賞には必ず「散文」の部門が設けられているため、小説や詩歌とあえて区分することが必…

李昂『海峡を渡る幽霊』

李昂(藤井省三訳)『海峡を渡る幽霊』(白水社、2018年) 海峡を渡る幽霊:李昂短篇集 作者: 李昂,藤井省三 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2018/02/17 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 台湾の女性作家、李昂(リー・アン、1…

遅子建『アルグン川の右岸』

アルグン川の右岸 (エクス・リブリス) 作者: 遅子建,竹内良雄,土屋肇枝 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2014/04/06 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る 「(…)あたしは諦めてるんだよ。何であれ、愛したものは結局失うことになるんだ。…

ワイルド『サロメ』

サロメ (光文社古典新訳文庫) 作者: オスカーワイルド,Oscar Wilde,平野啓一郎 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2012/04/12 メディア: 文庫 クリック: 6回 この商品を含むブログ (10件) を見る 平野啓一郎訳の光文社古典新訳文庫で。こんな短い戯曲でどうし…

中国新時期文学精品大系『傷痕』

中国新时期文学精品大系より、谷声应·陈利民编『伤痕』(中国文学出版社,1993年)。盧新華の「傷痕」、茹志鵑の「剪輯錯了的故事」を読もうと借りたものの、期限が来てしまったので返す前に目次を控えておく。 陈建功「飘逝的花头巾」★ 高晓声「陈奂生上城…

張愛玲『小團圓』

張愛玲の自伝的長編『小団円』(北京:北京十月文芸出版社、2009年)再読。 主人公・九莉の最初の恋人は胡蘭成がモデルとされる邵之雍だが、2009年の初読時は、どうしてこんな男と付き合ってしまったのかと不思議だった。既婚者(しかも最初の妻と法的に…

横溝正史「かいやぐら物語」

リテラリーゴシック・イン・ジャパン: 文学的ゴシック作品選 (ちくま文庫) 作者: 高原英理 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2014/01/08 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (7件) を見る 高原英理編『リテラリーゴシック・イン・ジャパン 文学的ゴシッ…

ドナルド・バーセルミ『雪白姫』

雪白姫 (白水Uブックス) 作者: ドナルドバーセルミ,Donald Barthelme,柳瀬尚紀 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 1995/08 メディア: 新書 購入: 1人 クリック: 11回 この商品を含むブログ (8件) を見る 雪白姫の心理=彼女は何を待ち望んでいるか? 「いつか…

鄭清文『丘蟻一族』

丘蟻一族 作者: 鄭清文,西田勝 出版社/メーカー: 法政大学出版局 発売日: 2013/09/27 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 最初は彼らも一点の不安を感ずることがあったかもしれない。時には、ちょっと顔を赤らめたに違いない。しかし、休む間もな…

ドン・デリーロ『コズモポリス』

コズモポリス (新潮文庫) 作者: ドンデリーロ,Don DeLillo,上岡伸雄 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2013/01/28 メディア: 文庫 クリック: 2回 この商品を含むブログ (12件) を見る 眠りはより頻繁に彼を見捨てるようになった。週に一晩や二晩ではない。四…

楊逸『流転の魔女』

流転の魔女 (文春文庫) 作者: 楊逸 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2015/12/04 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 百円のワンコインでお腹を満たし、お湯の哲学を学んだ私は、この時、きっと、いつかきっと、ワンコイン・五百円で騒ぎ立てまく…

牧村朝子『百合のリアル』

百合のリアル (星海社新書) 作者: 牧村朝子 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2013/11/26 メディア: 新書 この商品を含むブログ (16件) を見る 自分だけがおかしいのだ、と思っていたわたしは、同じように感じていた人が実は周りにたくさんいた、と知って驚…

ハ・ジン「シャオナの秘密」

アメリカ短編小説傑作選 2001 (アメリカ文芸年間傑作選) 作者: リック・バス,エィミ・タン,カタリナ・ケニソン,Amy Tan 出版社/メーカー: DHC 発売日: 2001/06 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る エィミ・タン編『アメリカ短編小説傑作選 …

朱天心『古都』

古都 (新しい台湾の文学) 作者: 朱天心,清水賢一郎 出版社/メーカー: 国書刊行会 発売日: 2000/06/01 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 2回 この商品を含むブログ (3件) を見る 〈新しい台湾の文学〉シリーズの一冊、朱天心『古都』(清水賢一郎訳、国…

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[3]『新郎新“夫”』

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[3]小説集――『新郎新“夫”』【ほか全六篇】 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 3) 作者: 黄英哲,白水紀子,垂水千恵 出版社/メーカー: 作品社 発売日: 2009/03/28 メディア: 単行本 購入: 2人 クリック: 12回 この商品を…

台湾現代小説選Ⅲ『三本足の馬』

三本足の馬 (研文選書―台湾現代小説選 (23)) 作者: 鄭清文,松永正義 出版社/メーカー: 研文出版 発売日: 1985/04 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 鄭清文・李喬・陳映真の三人の小説を一篇ずつ収め、若林正丈による解説「語られはじめた…

坂口䙥子『蕃婦ロポウの話』

それじゃあ、ロポウのノーカンへの初恋は万事終り、可哀想に失恋したね、と私がからかい気味にふざけるとハツエは神妙な面持ちで、そう思うは内地人の心じゃ、内地人という奴は、芋の皮一枚むいたように、すべりのよい面つきばかり最上として、そこへ一点黒…

ウラジーミル・ソローキン『ロマン』

ロマン〈1〉 (文学の冒険) 作者: ウラジーミルソローキン,望月哲男 出版社/メーカー: 国書刊行会 発売日: 1998/04 メディア: 単行本 購入: 2人 クリック: 153回 この商品を含むブログ (39件) を見る ロマン〈2〉 (文学の冒険) 作者: ウラジーミルソローキン,…

王禎和ほか『鹿港からきた男』

鹿港(ルーカン)からきた男 (新しい台湾の文学) 作者: 黄春明,宋沢莱,王禎和,王拓,山口守,池上貞子,垂水千恵,三木直大 出版社/メーカー: 国書刊行会 発売日: 2001/07/01 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 〈新しい台湾の文学〉シリーズの…