ドナルド・バーセルミ『雪白姫』

雪白姫 (白水Uブックス)

雪白姫 (白水Uブックス)

 

雪白姫の心理=彼女は何を待ち望んでいるか? 「いつかあたしの皇子様がきてくださることよ。」つまり白雪姫のいう意味は、自分を「完全」にしてくれる者の到来するまで、自分自身の存在を不完全なものとして生きるということだ。すなわち、自己の存在を「ともに=ない」ものとして生きるのだ(ある意味では、ビル、ケヴィン、クレム、ヒューバート、ヘンリー、エドワード、ダンという七人の男と「ともに」あるにもかかわらずだ)。(84頁)

 ドナルド・バーセルミ『雪白姫』(柳瀬尚紀訳、白水Uブックス、1995年)。確か七、八年前に買って、その時に最後まで読んだ記憶はあるものの、内容は全く覚えていなかったが、それもむべなるかな、小説というより様々な人物の角度から気ままに語られる散文詩という具合で、なんともつかみどころがない。
 訳者あとがき「Uブックス版に寄せて」によると、バーセルミは「《ジョイス以後に書く》という困難な文学意識を確固としてもちつづけて、その意識にとことん忠実だった数少ない作家であった」(238頁)由。となるとまずはジョイスを読まないことにはバーセルミのすごさが分からないということになろうか。しかしその前に、ジョイスのすごさを知るには、19世紀小説を嫌と言うほど読まなければならないのではなかろうか。
 ソローキン『ロマン(感想)では19世紀小説の解体が圧倒的な筆致で書き尽くされていたが、その瓦解の儀式めいた美にはトラウマに近い衝撃を受けたものの、肝心のドストエフスキートルストイは読んでいないのだから世話ない。とりあえず『カラマーゾフの兄弟』から読んでみるか。