チャン・イーモウ『サンザシの樹の下で』

サンザシの樹の下で (字幕版)
 

 DVDで張芸謀『サンザシの樹の下で』。1999年の『初恋の来た道』路線で、1970年代前半、町の高校生が学習に出かけた農村で出会った青年と恋に落ちる話。
 この同じ監督が『黄色い大地(感想)の撮影を担当したとは信じがたいほど、ひたすらに美しく撮られる山村にまったく現実味がなく(ヒロインはその清潔なブラウスをいつ洗濯して、長いお下げ髪をいつ洗っているのでしょう)、見続けるのがかなり苦痛で何度も中断してようやく最後までたどり着いた。
 ヒロイン・静秋役の周冬雨が純真を通り越してあまりに子供っぽく、地質調査隊の孫建新(竇驍)が彼女に手を出すのはほとんど犯罪だろうと思ったが、プロフィールを見ると竇驍とはわずか三歳しか離れておらず、18歳と21歳ではまあそれほど不思議な組み合わせではないかと納得した。しかしDVDの特典映像に周冬雨のインタビューが収録されていたが、役そのままの舌足らずな話し方で(でも一生懸命に無い知恵を絞って答えている様子がけなげ)、鞏俐や章子怡が最初からどこかしたたかな雰囲気を持っていたのからすると、張芸謀の好みもここまで来たかと唖然とする。
 恋人の孫建新が白血病に罹患したというところで話の筋はもう見え、まったく予想を裏切ることなく泣かせに入って映画は終わる。ただ、調査隊の中で白血病に冒されたのは彼ひとりではなく、前年にも病死者が出ており、孫は採取した鉱物を市に持って行って検査を依頼していたことが明かされる。これはいかにも取って付けたようで、白血病という設定があまりに安直であることに対する言い訳のようにも読めるが、結局原因が何であったのかは明かされないままだ。これは恐らく彼らが採取している鉱石が高い放射能濃度を有していたということで、特に核実験による汚染を示唆するわけではないのだろうが、扱いの小ささがかえって気にかかる。
 主人公は父が右派とされて収容所に送られており、母は学校の先生だが学内で労働改造の処分を受けている。というわけで、一度たりとも“犯錯誤”、すなわち過ちを犯してはならないと厳しく戒められている。趙薇の監督した新作『So Young』(致我們終將逝去的青春)にも、将来は建築と同じで1ミリたりとも設計を狂わせてはならない、という台詞があったが、どんな些細な失敗も許されないという中国の若者の緊張感が、こうした過去を背景にした作品にも色濃く反映されているのだろう。
 ところで、主人公はそうして一度も過ちを犯さずに80年代を迎え、ついに海外留学したことがラストの字幕で語られる。だがむしろ私が知りたかったのは、父母が批判されて家は貧しく苦しかった時代、だが同時にかけがえのない初恋の記憶とその喪失を経験した時代を、彼女は自分の現在にどう接続させて生きているかの方だ。記憶の中にその存在を封じ込められ、その根元に埋葬されたサンザシの樹さえも三峡ダムの底に沈められてしまった恋人は、過去の世界から亡霊となって現れることはないのだろうか。

原題:山楂樹之戀
英題:Under the Hawthorn Tree
制作年:2010年
制作国:中国
時間:115分
言語:中国語(普通話
監督:チャン・イーモウ張芸謀
原作:エイミー(艾米)『山楂樹之戀』
脚本:イン・リーチュエン(尹麗川)、顧小白、阿美
製作:チャン・ウェイピン(張偉平)、ビル・コン(江志強)、熊曉鴿、曹華益
出演:チョウ・ドンユィ(周冬雨/Zhou Dongyu)、ショーン・ドウ(竇驍/Shawn Dou)、シー・メイチュアン(奚美娟/Xi Meijuan)、リー・シュエチェン(李雪健/Li Xuejian)、チェン・タイシェン(成泰燊/Chen Taisheng)、スン・ハイイン(孫海英/Sun Haiying)、薩日娜(Rina Sa)、呂麗萍(Lü Liping)、于新博(Yu Xinbo)、姜瑞佳(Jiang Ruijia)、王勁松
撮影:チャオ・シャオティン(趙小丁)
編集:孟佩德
音楽:陳其鋼
美術:武明
録音:陶經