林麗芳『ツンマ ツンマ ヒマラヤの尼僧たちと過ごした夏』(尊瑪、尊瑪: 我和她們在喜馬拉雅的夏天、2018)

 台湾の女性監督によるインドのスピティ(ヒマーチャル・プラデーシュ州)、ラダック、ダラムサラ修道院の取材。監督は50歳を前に思うところあってヒマラヤを旅したというが、自分の解釈を抑制した語りで、修道院の日常生活の細部に丹念に目を向けている。アジアンドキュメンタリーズ配信。

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 中国語のナレーションが入るので、いくつかの用語の漢訳が分かった。出家した女性は「安尼」となり(チベット仏教では比丘尼の授戒が行われていない)、「尊瑪(ツンマ)」と尊称される。手を打ち足を踏み鳴らすのが特徴的な問答は「辯經」。学位を修めたゲシェは「格西」、ゲシェマは「女格西」。

 冬になると道路が通れなくなるスピティの尼僧たちは、10月になるとダラムサラ経由でブッダガヤに移動し越冬する。同じスピティのキー僧院の祭礼の様子が映ったが、ディジャリドゥのような長い喇叭が用いられていた。この尼僧院では祭礼や舞楽の奉納は行われない様子。尼僧たちも善男善女とともに祭りに行くが、出家といっても中には修道院に預けられた幼児もおり、シャボン玉で遊ばせてもらったり、完全に縁日を楽しむ子供だ。寒冷な高地で気候が厳しく、近隣の農村の生活も楽ではないという。子供を出家させるのは家族の生計の負担を減らすためでもあるのだろう。

 スピティでは夏になると二つの修道院によって問答の訓練が共催される。年配の尼僧は、自分は法を学ぶことができなかったが、若い尼僧にはゲシェマを目指して勉強してほしいと語る。

 ラダックには尼僧協会があり、会長はチベット伝統医でもあり、町に二つの診療所を開いている。若い尼僧たちがかいがいしく助手を務めており、男性患者も診る様子が映される。生薬を用いた治療で、薬草は自分たちで栽培するのだという。僧侶による診療は、身体の健康を診るだけでなく、一種のセラピーも兼ねるようだ。女性の地位が低い社会では、尼僧が医師の資格を取ることでロールモデルにもなっているという。「私たちは車も運転できるし」という彼女に、他の尼僧が「医学と車の免許は別でしょ」と突っ込む。ラダックの女性は運転免許の取得率が男性よりかなり低いのだろう。

 ダラムサラ修道院はさすがに立派な構えで、物資の不足するスピティと比べると雲泥の差といってよい。ここでは最初のゲシェマの試験(2014年から16年まで3年間かけて行われる)に挑む尼僧が登場する。中国領から幼い頃に脱出し、一年かけてインドに来たという彼女は、エンドロールで無事に学位を得たことが示される。ちょうど『ゲシェマの誕生』と同時期の撮影らしい。

 

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