2024-01-01から1年間の記事一覧

キム・ジウン『箪笥』(장화, 홍련、2003)

韓国のホラー映画リストによく上がる作品『箪笥』をようやく観た。監督は『人狼』のキム・ジウン。導入は屋敷ものだが、だんだんと流産や生理のモチーフが挿入され、ボディホラーの趣を呈してくる。決定的な謎解きに至るまでのサスペンスが巧みで、人間関係…

イアーラ・リー 『K2 アルピニストの影たち』(K2 and the Invisible Footmen、2015)

パキスタンと中国(新疆ウイグル自治区)国境にそびえる世界で二番目に高い山、K2。世界最高峰のエベレストよりも登頂は困難だとされる山で働くパキスタン人ポーターたちの姿を追う1時間弱のドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズ配信。 asiandocs.c…

エリザ・クバルスカ『K2 天空に触れる』(K2 - Touching the Sky、2015)

『クンバカルナの壁』に続き、エリザ・クバルスカの山岳ドキュメンタリーを溯って観る。登山家として撮影当時18年のキャリアを持っていた彼女は、登山家であることをやめず、同時に母になることができるかと自分に問いかける。アジアンドキュメンタリーズ配…

エリザ・クバルスカ『クンバカルナの壁』(The Wall of Shadows、2022)

『海の遊牧民 バジャウ族』でビーチリゾートを訪れる観光客と地元のバジャウ人の経済格差を描いたエリザ・クバルスカ(Eliza Kubarska)による山岳ドキュメンタリー。代理店を介して経済化される登山ツーリズムの現場が映される。アジアンドキュメンタリーズ…

ドナー・コールマン『トゥクダム 生と死の境界』(Tukdam: Between Worlds、2022)

「トゥクダム」とは冥想中に臨床上の死を迎えながら、姿勢が崩れることもなく死後硬直も起こらず、生きているかのような状態で数日以上経過することをいう。チベット仏教では、冥想中に意識は深みに到達するが、その最深部に下りた微細な意識が肉体に残って…

金華青『仄暗く赤い森』(絳紅森林、2021)

『チベット・ガール』の男性監督・金華青によるドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズ配信。 asiandocs.co.jp zacco-q.hatenablog.com 四川省カンゼ・チベット族自治州白玉県に位置するヤチェン(亜青)寺。尼僧たちは長い冬の間、雪原に一人一室ず…

林麗芳『ツンマ ツンマ ヒマラヤの尼僧たちと過ごした夏』(尊瑪、尊瑪: 我和她們在喜馬拉雅的夏天、2018)

台湾の女性監督によるインドのスピティ(ヒマーチャル・プラデーシュ州)、ラダック、ダラムサラの修道院の取材。監督は50歳を前に思うところあってヒマラヤを旅したというが、自分の解釈を抑制した語りで、修道院の日常生活の細部に丹念に目を向けている。…

グレゴリー・プロトキン『パラノーマル・アクティビティ5』(Paranormal Activity: The Ghost Dimension、2015)

シリーズ1・2・3、呪いの印と来て、4は未見で5へ。ケイティとクリスティの姉妹の幼少期を描いたシリーズ3に接続している。 少女リーラと父母が引っ越して来るところから始まる。クリスマスを迎え、父の弟がやって来て長逗留することに。そこに前の住人が残し…

ウェス・アンダーソン『奇才ヘンリー・シュガーの物語』(Roald Dahl's The Wonderful Story of Henry Sugar、2023)

ロアルド・ダール原作の短篇から四つを短篇映画シリーズにしたもの。邦題は『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』とも。動きを最小限にした演劇的な構成で、いずれも作家自身が途中で顔を出し、執筆中の書斎から観客に語りかける。 『奇才ヘンリー・シュガ…

ケビン・コルシュ、デニス・ウィドマイヤー『ペット・セメタリー』(Pet Sematary、2019)

スティーヴン・キング原作。1989年にも映画化されているそうだが、こちらは2019年のバージョン。オープニングは、庭先に停まった車の開いたままのドアから、血痕がポーチを伝って家の中へと続くカット。 ペット・セメタリー (2019) (字幕版) ジェイソン クラ…

金華青『チベット・ガール 翼を求めて』(貢秋卓瑪、The Tibetan Girl、2016)

30分の短編。アジアンドキュメンタリーズ配信。 中国・四川省アバ出身の女性歌手。家族の心配をよそに単身北京に赴くが、信仰と生活が一体となった草原の暮らしとはまったく異なる上、漢族の飲食その他の習慣にも馴染めない。かといって、帰郷しても虚しさか…

マラティ・ラオ『ゲシェマの誕生 ー尼僧院の希望ー』(The Geshema Is Born、2019)

チベット仏教の尼僧たちの姿をインドで取材したドキュメンタリー(クレジットを見るとネパールの尼僧院も撮影に協力しているようだ)。アジアンドキュメンタリーズ配信。 asiandocs.co.jp 「ゲシェ」というのはチベット仏教の学位取得者の称号で、尼僧の場合…

ペマ・ツェテン『羊飼いと風船』(氣球、2019)

監督自身の漢語小説を原作とするチベット語映画。漢語の台詞は風船を買うわずかなやりとりのみで、エンドロールもすべてチベット語(+英語)。チベット語の世界を漢語で文章にすることを最初の翻訳とすれば、映画はチベット語の音と風景への再翻訳といえる…

Rob Sixsmith『アイスコールド 殺人とコーヒーとジェシカ・ウォンソ』(Ice Cold: Murder, Coffee and Jessica Wongso、2023)

インドネシアの犯罪ドキュメンタリー。2016年にジャカルタのカフェで Wayan Mirna Salihin という若い女性が急死した。彼女の飲んでいたアイスコーヒーからシアン化物が検出され、状況証拠から一緒にいた友人の Jessica Wongso による毒殺が疑われる。裁判の…

リー・クローニン『死霊のはらわた ライジング』(Evil Dead Rise、2023)

これは設定が邪悪すぎる。湖畔の山小屋で悪魔に襲われる若者たちの話と思いきや、それはまくらに過ぎず、メインはその前日に悪魔を呼び出してしまった一家の惨劇だ。 妊娠に気付いた妹は、長く疎遠だった姉の家を訪ねる。しかしタトゥーアーティストの姉は離…

イリス・ザキ『美容室』(Women in Sink、2015)

故郷ハイファで友人フィフィの経営する美容室にカメラを設置し、女たちの髪を洗いながらインタビューする監督。アラブ人キリスト教徒の店だが、ユダヤ人の常連客も多い。ほぼ10年前の撮影だが、第二次インティファーダ以降イスラエル国内に醸成された民族関…

Cassius Michael Kim『Man On The Run』(2023)

マレーシアの1MDBを隠れ蓑にした金融犯罪をめぐるドキュメンタリー。Netflixで配信。 タイトルの「逃亡者」とは、一義的には計画実行と不正に得た金額からして最大の責を負うと思われるジョー・ロウのこと。今なお消息は不明で、捜査関係者の推測では生きて…

Nizam Abd Razak『メカアマト MOVIE』(Mechamato Movie、2022)

劇場版メカアマト、日本では吹き替え版のみの上映。公開最終日に劇場で鑑賞。(グッズはメカボット*1のマグネットを買って大変満足した) アニメシリーズの前日譚としてアマトとメカボットの出会い、そして街のヒーロー「メカアマト」の誕生までが描かれる。…

イニゴ・ウェストマイヤー『ドラゴン・ガール』(龍之女、Dragon Girls、2022)

少林寺付近に多くある全寮制の武術学校の一つ、塔溝武術学校で訓練を受ける少女たちを追うドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズで配信(2024年1月31日まで)。 asiandocs.co.jp 監督 Inigo Westmeier はブリュッセル出身でロシア・ドイツ・米国で学…

潘志琪『天国の庭』(胡阿姨的花園、2022)

坂の街・重慶の「十八梯」は、往時の雰囲気を残す観光地として近年再開発された地区。かつてそこに暮らしていた胡おばさんは敬虔なクリスチャンで、貸金を踏み倒されてゴミ拾いと安宿の経営で生計を立てていた。アジアンドキュメンタリーズで配信(2023年1月…

オルガ・コロトカヤ『トゥバの喉歌』(SING、2018)

アジアンドキュメンタリーズで配信。シベリアに位置し、モンゴルに隣接するトゥバ共和国。女性が喉歌を歌うことは、トゥバ文化への冒瀆として禁忌とみなされており、喉歌を歌う女は子孫繁栄という最大の福を得られないとまでいわれていた。それでも90年代以…

アビー・マーティン『ガザ 自由への闘い』(Gaza Fights For Freedom、2019)

米国のジャーナリストAbby Martinによるドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズで視聴。2023年11月29日から無料公開されており、登録すれば全編を見ることができる。 asiandocs.co.jp パレスチナの歴史を簡潔に振り返った上で、2018年からガザのイス…

ジェームズ・ワン『アクアマン』(Aquaman、2018)

アーサー(ジェイソン・モモア)は、海底のアトランティス帝国の女王(ニコール・キッドマン)と人間の灯台守との間に生まれ、水陸両方で自在に活動できる。父子は海底の政争のために連れ戻された母の帰還を待つが、やがて彼女は処刑されたと知らされる。 は…

クリストファー・ランドン『パラノーマル・アクティビティ/呪いの印』(Paranormal Activity: The Marked Ones、2014)

『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ第4作。ケイティとクリスティの姉妹をめぐる3作目までの物語からいったん離れ、メキシコ系のコミュニティへと舞台は移る。定点カメラではなく小型の手持ちカメラでの撮影へと変化。 主人公ジェシーの高校の卒業式か…

ジミー・ヘンドリックス 『俺たちは、パンクだ!インドネシアで生きてやる』(A Punk Daydream/Lamunan Oi!、2019)

インドネシア・ベルギー合作のドキュメンタリー。アジアン・ドキュメンタリーの配信で鑑賞。 asiandocs.co.jp 監督 Jimmy Hendrickx はベルギー出身で、2012年からインドネシアに暮らしているらしい。ほかに『A Hong Kong Opera』(2014)などがある。 iffr.c…

アニーシュ・チャガンティ『search サーチ』(Searching、2018)

『RUN/ラン』のアニーシュ・チャガンティ監督作品。失踪した娘の手がかりを求め、父親が必死で娘のノートパソコンの履歴を調べるサスペンス。画面に映し出されるのは、すべてFaceTimeの通話やSNS画像、ウェブサイトにニュース動画という画面内カメラを通した…

パーカー・フィン『Smile スマイル』(Smile、2022)』

精神的な問題を抱える女性を主人公にするホラー映画では、以前に依存症を描いた『エンドレス・エクソシズム』を見たが、こちらは自死遺族のトラウマに焦点を当てた作品。 精神科救急医療を担当している医師のローズ(ソシー・ベーコン)の元に、脅えきった若…

リドリー・スコット『エイリアン』(Alien、1979)

ボディ・ホラーの文脈でよく聞くものの、見たことはなかったので初めて配信で鑑賞。 エイリアンに襲われるシーンより、規定のプロトコルを自己判断で無視し、さらに乗組員間の連携を失うという事故発生の経緯の方がむしろ恐ろしい。そしてリプリー(シガニー…