潘志琪『天国の庭』(胡阿姨的花園、2022)

 坂の街・重慶の「十八梯」は、往時の雰囲気を残す観光地として近年再開発された地区。かつてそこに暮らしていた胡おばさんは敬虔なクリスチャンで、貸金を踏み倒されてゴミ拾いと安宿の経営で生計を立てていた。アジアンドキュメンタリーズで配信(2023年1月31日まで)。

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台湾からは公視+で無料視聴ができるようだ。

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 ゴミ拾いの傍ら、目についた廃物を収集して庭を造る彼女は、そこでの生活を幸福だと言い、よい思い出ばかりだと語る。他人の保証人になって債務を負った彼女だが、自身もさらに1万元の借金があり、夫とは離婚している。罪深い自分は人並みの生活をしてはならないと、自分のためには金を遣うことなく、二〇年近く残飯で生きている。安宿の経営で得た家賃は右から左に店子に貸してしまい、心配した息子は一緒に暮らそうと何度か持ちかけるが、彼女はスラムでの生活にこだわる。

 息子は息子で、病気のために職を得られずにおり、失業状態がさらに精神的負担となって病躯に重くのしかかっている。母には結婚して息子がいると語っているが、母は一度も嫁と孫に会ったことはない。どういう事情かと思ったら、実は息子は病気の時に支えてくれた彼氏と同居しており、どうしても母には告げられずにいるのだった。

 2015年、快方に向かった息子は長江のクルーズ船に職を得る。貸した金も借りた金ももういいから、ゴミ拾いの生活はやめてくれと頼むが、母は聞き入れない。江西省の故郷を訪ねて、1万元を借りた相手には返済猶予を頼み、貸し倒れの金の回収を試みるが、債務者には会えず、音信不通となった者までいる始末。

 2018年、再開発に伴ってフーおばさんは住み馴れた十八梯を離れ、息子のアパートに同居することになる。「虹色の傘は幸運を招くから」と大事にレインボーパラソルを持って行く母だが、息子については理解できないままだ。彼氏が出て行った寂しさを埋められるかと思いきや、母がやたら拾って部屋に飾ろうとする「がらくた」に悩まされる息子。妻子がいるという話は母を安心させるための嘘だったと明かしたものの、母は「病気だったから別居しているだけ、孫は今年で十六歳になる」との思い込みに固執している。

 胡おばさんの「罪」とは債務を負って家庭を崩壊させたことなのか、それとも原罪を指しているのか、あるいは両方なのかもしれない。罪を負って日々を生きることの尊さを思うと同時に、我が身を省みれば、現在享受しているすべてに自分が値するかのような傲慢な思い込みが刃となってはね返ってくる。

 とはいうものの、狭い家で廃物収集癖は困るなあと、時々声を荒らげる息子の気持ちも分かるのではあった。