冬は零下40℃が記録されることもあるという、首都としては最も寒冷な地に位置するウランバートル。民主化と市場経済の導入後、経済格差が開き、インフレの中で失業率も高い。牧畜で生計を立てられなくなった人々は職を求めてウランバートルに流入するが、身分証明書が発給されず、定職に就くのも困難だ。
寒さから身を守る家を持たない人々は、マンホールから地下に入り、温水パイプで暖を取って暮らす。そこには権力関係があり、古参者の下で新入りはしじゅう殴られ、貶められる。取材される二人の男は互いを父子と頼り合っているが、同じスペースで寝起きするブリヤート人はことごとに文句をつけられている。
地下では換気がなされないために感染症、特に結核が蔓延し、パイプが故障すれば火傷で死に至る危険もある。現金収入の手段はゴミ拾いだ。マンホール生活者の9割はアルコール依存の状態にあるという。貧困から生じる抑鬱状態を紛らすため、またはより直接に寒さをしのぐため、生活にアルコールは欠かすことができない。
アルコールのために家族を失ってマンホール生活に入った者もいれば、子供の頃からマンホールで育った者もいる。一様に実年齢よりかなり老いてみえる。中には女性もおり、地下で子育てをするケースもあるが、女性にとってマンホールの環境は男性より厳しいものである。酒に溺れた夫からの暴力を受けることもあれば、ホームレス仲間の共同体の中で、夫にとって妻は自らの男性性を誇示する道具のように用いられることもある。そうなると男性同士の連帯を損なう邪魔者として排斥されもする。
彼らに医療を提供する総合病院もあるが、心臓や肝臓の治療は受けられても、アルコール依存につながる生活環境の根本的な解決はなされない。マンホール育ちの子供たちは、自分の運命だとその生活を甘受している。親元から逃げ出して施設に入所した少年が最後に取材されるが、彼は社会構造の問題に気付き、いつか失業やアルコール依存の問題を解決するために働きたいと志を語る。