リー・クローニン『死霊のはらわた ライジング』(Evil Dead Rise、2023)

 これは設定が邪悪すぎる。湖畔の山小屋で悪魔に襲われる若者たちの話と思いきや、それはまくらに過ぎず、メインはその前日に悪魔を呼び出してしまった一家の惨劇だ。

 妊娠に気付いた妹は、長く疎遠だった姉の家を訪ねる。しかしタトゥーアーティストの姉は離婚して間もなく、三人の子を抱えてなんとか日々を過ごしている状態だった。妹はバンドのスタッフとしてツアーに参加しているが、姉は内心「グルーピー」にすぎないと思っているらしい。

 

 

 やがて地震で床が崩落し、アパートの地下室が露出する。そこで見つけたレコードを、DJに憧れる息子が面白半分に再生するが、それは悪魔を呼び出す呪文の録音であった。ちょうどエレベーターで地下に降りようとしていた母が取り憑かれてしまう。そこから先は、母が三人の子の眼前で悪魔に憑かれ、助けようとした隣人たちも惨死、さらに長女の身体にも悪魔が入り込み……という凄まじい展開。

 少女が憑依されて家族が右往左往するという王道ではなく、父が出て行った家庭で母が取り憑かれる恐怖。父もいなければ神父もいない世帯では、ひとたび悪魔と化してしまえばもはや母でも姉でもなく、身体をバラバラにするか逃げるかするしかない。家庭は崩壊あるのみ。周囲が援助の手を差し伸べようとすれば、引きずり込まれて自分も命を落とすことになる。

 高校生くらいの息子がつい「悪魔を呼び出し」てしまうことはあるだろうし、それがまず母に憑き、長女に憑くというのも現実に起こりうるだろう。悪魔の言葉なのか、それとも実は自分を邪魔に思っている家族の本心なのか定かでない部分がまた怖い。血糊の量は満点だが家族ドラマとしては後味が悪すぎる。

 

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