フェデ・アルバレス『死霊のはらわた』(Evil Dead、2013)

 『ドント・ブリーズ』シリーズのフェデ・アルバレスが、サム・ライミ監督の1981年の同名作品をリメイクしたもの。サム・ライミは脚本と製作に回っている。オリジナルは未見だが、ジャンプスケアや文字通り血の雨が降る派手な演出、そして恐怖というより不快感を催すねっとりした赤の使用と、短めの尺の割にずっしりと残る。悪魔に憑かれた女を男が退治するという単純な構造に、ひねりが加わっているのもポイント。

 チェーンソーを手にした殺人鬼が活躍するものと混同していたが、これは若者たちが山小屋で書物から封じられた悪魔を解き放ってしまう話。拉致されて縛り上げられた若い娘(に憑いた悪魔)が、父の手で火を放たれて焼き殺されるシーンがプロローグになる。

 それから何年後になるのか、長年放置されていた山小屋に、薬物依存症の治療のためにミア(ジェーン・レヴィ)とその友人たちが集まる。そこには、長年疎遠だった兄のデビッド(シャイロ・フェルナンデス)の姿もあった。

 異臭がすると言い出したミアに、犬も反応し、地下室の入口が見つかる。入ってみると大量の猫の死骸がぶら下げられ、さらに燃やした形跡のある杭など、不気味な呪術の痕跡が見つかる。兄の友人のエリックは、その中の厳重に封印された本を手に取り、興味本位で開封した上、ご丁寧にそこに書かれていた呪文を唱えてしまう。

 ミアの体に悪魔が乗り移る際、口からではなく、黒いものが蔓状に伸びてミアの足を這い上がり、スカートの中に侵入する。それから順番に三人の女たちに悪魔が憑き、血と吐瀉物、粘液といったアブジェクシオンの狂宴の後、一人ずつ順番に惨殺されてゆく。

 悪魔の憑依は、当初薬物の禁断症状と誤解される形で表面化するが、次第に兄妹の奇妙なよそよそしさの秘密が浮かび上がってくる。母は重い精神疾患に苦しんでおり、父のいない家庭で、耐えかねた兄デビッドがすべてを少女時代のミアに押しつけて家を出てしまっていたのだった。依存症になると虚言によって人間関係が壊れてしまうケースが多いというが、ミアは「兄さんはもうじき帰ってくるから」と母に嘘をつき続けなければならない立場に置かれる。結局、母は精神病院で亡くなっていた。ミアは自責の念に駆られつつ、薬物に依存するようになったらしい。このままではオーバードーズで命を落としかねないと、心配した友人たちがリハビリキャンプ(実は二度目)に連れ出したのだった。

 兄には、母の病気が自分たちにも遺伝しているのではないかとの不安がつきまとっている。臆病者と友人のエリックに罵られる通り、襲い来る「おぞましいもの」を自分と連続したものととらえてしまい、向かい合って対処することができない。

 しかし、最終的に彼は、妹を「おぞましいもの」として処刑することは選ばず、殺すことで生かすという賭けに出る(『フィアー・ストリート』の元ネタはこれか!)
兄妹に影を落とし続けている母の存在との対決がテーマのように見えながら、勘ぐると、悪魔を解き放った諸悪の根源たるエリックこそ、かつてデビッドを家出させ兄妹の仲を引き裂いた原因なのではないだろうか。兄妹の再会の場面の別れた恋人同士が顔を合わせるかのような気まずさは、近親姦を示唆する演出かと思ったが、ミアを侵犯し悪魔を呼び込む隙を作ったのがエリックだったとすると、デビッドが耐えられなくなったのは、妹の中におぞましいものとしての女を見出したことではなかったか。

 『死者の書』はシュメール人の遺跡から出土したことがエンディングで示唆される。『エクソシスト』以来、悪魔はオリエントからやってくるらしい。そして惨殺事件の舞台となる地域に暮らす人々はやはり "redneck" なのだ。

 

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