唐捐主編『臺灣軍旅文選』

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唐捐主編『臺灣軍旅文選』(台北:二魚文化、2006)読了。アンソロジーのテーマには数あるが、軍隊生活を綴った作品ばかりを集めたものは初めて眼にした。あくまで戦記とは異なり、戦闘ではなく兵役が主題だ。
 これは詩人の焦桐(邦訳に『完全強壮レシピ―焦桐詩集 (台湾現代詩人シリーズ)』など)と謝秀麗の夫妻が経営する出版社、二魚文化から出ている「人文工程」というシリーズの一冊。ラインナップを眺めると、焦桐の人脈か、編者は若手の詩人が多いようだ。いずれも収録作家の世代が幅広く各作品の長さも短いものばかりなので、読解の教材にもしやすいかもしれない。『臺灣醫療文選』『台灣宗教文選』『台灣同志小說選』といったタイトルが目を引く。目次を見ると、名前は知っているが読んだことはない作家がかなりの数を占める。シリーズを一通り読めば台湾文学の作家はひととおり押さえられるのではないだろうか。
 この『臺灣軍旅文選』は、作者の生年による収録順で1928年生まれの張拓蕪に始まり81年生まれの湖南蟲で終わる。次末を飾る李晉仰(80年生)の文章はもともと個人ブログにアップされたものだそうで、軍隊の隠語や俗語、あまり行儀のよろしくない表現を遠慮なく交えた語り口が、なんだか飲み会でかつての同級生から経験を聞かされているような気やすさで楽しい。
 時代を逐って沈鬱な調子が薄れ、70年代も後半の生まれの世代になると、軍隊で経験した(あるいは入隊にまつわる)あれこれがほとんどネタとして語られるところにまで至るようだ。
 鯨向海(76年生)の名前はよく目にしていて、軽い読み物の書き手かと思っていたが、ここに収められた「阿凱的原形」は読み終えて思わずため息が出るような短篇。具合が悪いと言って医務室にやってきた阿凱だが、どこが悪いのか聞いても要領を得ぬ答えで、あげくに診察を受けながら自慰を始める始末。訓練中にも突然鬼ごっこを始めたり、昼寝の時間に「全員起床!」と騒ぎ回ったり、どうも尋常ではないとの声が寄せられる。詐病なのか何かに憑かれたのか、それとも訓練中に受けた何らかのショックで失調をきたしたのか…。結局真相は分からぬままだが、報せを聞いて駆けつけた母が道士のところに連れて行って「収驚」してもらったところ、さまよい出た魂が戻ってきて正常に行動できるようになった、というのはいかにも台湾らしい。
 下に目次を掲げておく。

序論 身體與文體之兵變 唐捐
張拓蕪 老兵話舊
管 管 吾的雕堡
楊 牧 我的航行
鄢 野 金門鴻爪 
阿 盛 鹹風故事
小 野 慣聽槍聲的麻雀
履 彊 奔揚的生命
林文義 鐵蒺藜畔的薔薇
孫瑋芒 金門之犬
吳 鳴 湖邊的沈思
陳 今 在曠野中獵日
楊 照 軍旅札記
袁哲生 恭禧你,外島!
唐 捐 帶血氣去當兵
潘弘輝 夜航
王盛弘 我的草木們
鍾正道 胡導長
許正平 當兵不當兵,這不是一個選擇題
孫梓評 寂寞芳心幹訓班
鯨向海 阿凱的原形
陳思宏 酒肆軍旅行
張郁國 兵的位置
吳億偉 我想要當兵
達 瑞 軍旅
李 中 紅豬肉與白斬雞
李晉仰 在刃之端
湖南蟲 夏哨