ニコール・シェーファー『アフリカの少年ブッダ』(Buddha in Africa、2019)

asiandocs.co.jp

台湾の仏教系慈善団体ACC(阿彌陀佛關懷中心)によりマラウィに設立された全寮制の学校を取材したドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズ配信。

台湾の僧侶が創設したACC(Amitofo Care Center)についてはサイトに紹介があり、マラウィの孤児院は2004年に設立されたとのこと。よく欧州映画に出て来る厳格なカトリック寄宿舎を仏教版にしたような印象を受けた。

www.amitofocarecenter.org

仏教と菜食(卵はあったような)を基本に中国語で運営される。中国語(繁体字・注音で台湾人講師が直説法で教える)は授業でも学ぶ。数学は現地の教員が英語で教えているシーンがあり、カリキュラムはマラウィの基準を満たしているようだ。

寄付を募るため武術の公演を世界各地で行っており、二期生で16歳の少年イノックは花形スターだ。彼は卒業後に台湾に留学する資格を得るが、幼児期に祖母の村(村人はほとんどムスリムだという)を離れた彼は、毎年二週間帰省するだけで、地元のヤオ語も話せず、自分はマラウィの暮らしを本当には知らないのではないかと思い悩む。

武術のコーチは中国から招聘したらしい。イノックは彼に非常になつき、父のように(と自分で言う)慕っているが、中国人コーチは最終的に体罰がもとで送還される。このくだりは、中国的なやり方の押しつけというより、日本の学校部活動で見られるような、指導者が生徒を全面的に支配しようとする構図のように見えた。

イノックの祖母は、最初彼を預ける時、村人みなに反対されたと語っている。中国人は人食いだと囁かれていたからだとか。祖母の一家は、彼には教育を受けてほしいと望んでいる。彼の望みどおりにマラウィの大学に進学させる費用を捻出するのは難しい。

マラウィの人々に対する差別語(「黑×」のような類の)は用いられないが、組織代表の言葉の端々に、マラウィの貧困は人々がそこに甘んじているからだという意識が滲み出ているのは否定できない。「十足臺灣風味的非洲小孩」を育むという言葉には、日本統治期台湾の教育を連想してドキッとさせられる。

児童生徒の全員に中国名が与えられるが、イノックは「阿魯」と。Enock Belo の lo から取ったのか、発音しやすさを考えたのか、理由はあるのかもしれないが、もうちょっといい名前をつけてあげればよいのにと思ってしまった。「以諾」とか駄目なのだろうか……

台湾でも2020年にテレビで放送されたそうで、以下の紹介記事がある。

台灣人傳佛法到非洲 紀錄片揭孤兒文化認同危機  

 www.mirrormedia.mg

 

イノックは最終的に台湾留学の道を選び、2015年に渡台、武術を専門に学んだという。2020年の記事では、帰国後はACCで武術を教え、エスワティニに2023年新設予定の専門学校に赴任することになるとか。

我是孤兒,我有和尚爸爸  

 life.tw