台湾の山の妖怪「魔神仔(モシナ)」と、登山客の後ろに映り込む赤い服の少女の都市伝説を背景にしたホラー映画。『ザ・ソウル 繋がれる魂』(2021)の程偉豪監督作品。
不動産会社に勤める何志偉(黃河)は祖母と二人暮らしで、真面目な性格ながら、営業成績を上げようと何やら怪しげな自己啓発書をせっせと読み、付箋に抜き書きしてPCモニターに貼り付けつつ、連日の長時間労働に疲弊している。ラジオ局に勤める恋人の怡君(許瑋甯)とは付き合って五年になるが、彼女は結婚も出産も考えていないといい、志偉を落胆させる。
そんなある日、友人に会いに行くと夜間に出かけた祖母が失踪。監視カメラには幼い少女に手を引かれて歩いてゆく祖母の姿が残されていた。山の乱開発で住むところがなくなった魔神仔が人里に出て来ているのだと、警備員が退散のまじないをし爆竹を鳴らす。
祖母は言葉からすると中国北方の出身らしく、志偉も台湾語の「阿媽」ではなく「奶奶」と呼んでいる。もともと眷村だった地域の設定なのかもしれないが、近所の老人たちは台湾語で話しており、祖母もそこに融け込んで親友もいた様子。
写真に残る幼い女の子の都市伝説の不気味さは、映画では髑髏模様の蛾をイメージしたクリーチャーに作り変えられることで、かなり減じている気がした。終盤で急にプロライフ映画になるのも不満だが、続編が出産もののボディホラーになることを予感させて終わる。志偉と怡君のカップルは、二人とも両親の話題が出て来ないし、怡君は天涯孤独の身の上らしいので、続編で設定が明かされるのだろう。
山中では名前を呼ばれても返事をしてはならないとか、人を探す時にはその人の身につけていたものを持参する(この場合は幼少期に履いていた靴)という民俗をメモ。日本統治期、樟脳の製造や台湾の木材の伐採で日本の技師や労働者が山に入っていたはずで、山中の禁忌にかかわるジンクスは日台で交換されているのだろう。
ところで、恋人を探しに捜索隊に加わる怡君が、山中泊は初めてと言うにもかかわらず黒いジャケットで山に入るので、「絶対はぐれる」と思ったらその通りになる展開。絵になるかどうかは別として、捜索隊に加わってみいらとりがみいらになってはどうしようもないので、初心者が山に入るには蛍光色のアウターがよいのでは。
★シリーズ第二作・第三作