クリスチャン・アルバート『ケース39』(Case 39、2010)

 児童相談所ケースワーカーのエミリー(レニー・ゼルウィガー)は、多忙な毎日の中、充実感と同時に、子供を虐待する親を自分が権力者として裁いているようだとかすかに感じている。

 彼女の担当するケース39の対象児童リリーは、実の両親にオーブンで焼かれそうになったところを救出される。エミリーにひどくなつき、受入先の家庭が見つかるまでという条件でエミリーが彼女の里親となることを特例で認められる。しかし、次第にエミリーは違和感を覚え始め……。

 エミリーは愛称の「エマ」を名乗っているが、リリーは彼女を「エミリー」と呼び続ける。すぐに気付くとおり二人は名前からして似通っている。やがてエミリーもひとり親家庭で育ち、母から虐待を受けていたことが明かされる。「私は母親になるタイプじゃない」というエミリーが独身を通しているのには、虐待の連鎖が自分にも起こるのではないかという不安が隠れている。

 エミリーの身辺に起きるのは「悪魔」の仕業とされる超常現象なのか、それとも彼女の幻覚や関係妄想なのか、次第に線引きが難しくなり、気付けばエミリーは事故死した母の行動をなぞっている。

 担当ケースを資料を自宅に持って帰ってはダメだろうとか、部外者が立ち入れる場所に保管してはダメだろうとか、今の目から見ると個人情報管理が甘くて心配になるが、自宅に固定電話を二台も設置している設定だから、90年代末くらいが背景なのかもしれない。

 レニー・ゼルウィガー演じる親しみやすく善良そうな女性が、取り憑かれたように変貌してゆくのが見どころの一つ。吐息の混ざるような話し方はセクシーなまま、ちょっと垢抜けないスタイリングがとても魅力的に感じられる。