パークプム・ウォンプム『Delete/デリート』(2023)

タイのドラマ。全8回。ライター・編集者のエームと農場主夫人のリリー。互いのパートナーに隠れて交際を続けているが、ひょんなことから撮影した相手を消せるカメラ搭載の携帯電話を手にする。

第1話

 第1話は二人の関係が露見し、エームは恋人に現場の動画を押さえられ、相手と別れて自分のもとに戻ってくれないなら流出させると脅されるところまで。しかし、こういうカメラがあったらまずは自撮りで自分の存在を抹消したいが、ただ物体として肉体が消えるだけで、存在しなかったことにはならないらしい。

第2話

 エームは同棲している恋人を「消した」と告げる。リリーは妊娠に気付き、夫のトゥーを消そうと考えるが、夫は誕生祝いのサプライズパーティーを計画、大勢の客が訪れてうまくゆかない。その夜、夫は彼女を厩舎に連れて行って新しい馬を贈る。

第3話

 リリーの失踪が発覚し、夫の家は家宅捜索を受ける。エームの恋人も周囲に不在が勘づかれ、両者とも捜査の対象に。リリーの夫は、義母の連れ子である妹ジューンとただならぬ関係にあるらしいのだが……。農場での対決シーン、水田でなくトウモロコシ畑だが、舞台はチェンマイあたりだろうか?

第4話

 視点が変わって、農場主の妹ジューンの目に映るリリー失踪までの一ヵ月。人を消すカメラはジューンの手にあり、自撮りでは効果がないことも判明。ジューンはカトリックの寄宿舎学校に入れられており、多才な優等生だが、どうやら盗癖があるらしい。
校内ではいじめがひどく、週末に帰宅するたび、義理の姉にあたるリリーに悩みを打ち明ける。姉妹同様の二人だが、母が死んでから初めて優しくしてくれた相手であるリリーに、ジューンはそれ以上を望み……。

第5話

 農場主トゥーとジューンの兄妹は、それぞれ別に未知の男に襲われ、携帯を渡すよう迫られる。最初にリリーに写真を撮ってくれと頼んだ少女の事件と、刑事を介した関係が発覚。そしてなんと、「人を消した人間が消されると、過去に消した相手が戻ってくる」という規則があるらしい。
 ジューンは自分をトイレに閉じ込めた女子生徒を「消す」。それを目撃した男子生徒は彼女から携帯を取り上げるが、実は彼の姉も昔失踪していて……。
 トゥー一家の財産は、現在は車椅子生活の父が農場経営により一代で築き上げたものだが、父の二人の妻がいずれも早世したのには何か秘密がありそうだ。

第6話

 リリー失踪の夜。何と彼女は、冒頭で彼女に写真を撮るよう依頼した少女クレアの両親に拉致監禁され、携帯のありかを問いただされていた。テレビではDNP(国立公園)によるカレン族への立ち退き強制に抗議し、逮捕された後に失踪していたカレンの活動家ビリーの頭骨の一部が発見されたというニュースが流れる。

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 クレアは看護師の母の職場に出入りするうち、親しくなった患者の苦しみを見かねて、頼みを聞いて「消して」いたのだった。その秘密を抱えたまま、娘を取り戻そうとする両親の企ては一部のみ成功する。他人の娘を消すことにためらいのない男だが、自分の娘を取り戻すことには執着する。

第7話

 ジューンから携帯を奪ったクレアの父は、リリーを消してクレアを取り戻す。しかし、リリーから電話を受けた夫のトゥーと、ジューンを襲った男の正体に気付いたエームが自宅を突き止め、クレアの父を消すことに成功。

第8話

 リリーはお腹の子とともにトゥーの元に戻ることに決め、エームに別れを告げる。ジューンも無事に戻ってきて、農場主の方はめでたく一家団欒。ジューンは兄から虐待を受けていたのではないかと疑っていたが、どうやらそうではないようだ。

 エームの方はというと、恋人を消してしまった上にリリーにも去られ、自責の念に苛まれ、自分を消すようトゥーに依頼する。
 そして農場主の妻たちや、ジューンの級友の失踪した姉の行方が明らかになり、生きながらの埋葬の恐怖がリリーを襲う。敷地はこれだけ広いのだから、もっと早く処分して然るべきであるような気がするが、埋葬まで棺を長期間安置する旧習が背景にあるのかもしれない。ジューンはかつて集めていた義姉の写真を削除するが、そのうちにふと父と兄の秘密の一端に勘づく。だが最終的には沈黙を選ぶ……。

 

 姿を消すのがみな誰かの「娘」であるのが伏線の一つと言えるかも。そして「娘」たちを呼び戻すためのシャッターを切るのはみな男である。ちなみにカメラは形状こそ携帯そっくりだが、通信機能は使われることなく終わる。そして水没に強く、一度撮影した写真は消えずに記録されるらしい。

 男女の愛情のもつれが生むサスペンスかと思っていると、人間を「消す」ことの政治的・社会的寓意がほのめかされる仕掛けだ。

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