『ある呪われた学校で… ザ・シリーズ』(School Tales the Series、2022)

学校の怪談をテーマにしたタイの一話完結のオムニバスドラマ。Netflix配信。SNS世代というか、日常をすべてリアルタイムでネット上に公開してしまう高校生たちの間で、嫉妬や羨望と同時に恐怖も増幅され伝染してゆく。一話が45分ほどと、内容の割にやや尺は長め。原題は『โรงเรียนผีมีอยู่ว่า…』。

 

第1話 午前7時(Q)

Thanadol Nuansut 監督。毎日朝7時に、何者かの手である科目名が黒板に書かれる教室。8時の始業ベルが鳴った時、書かれた科目の教科書を持っていない生徒は姿を消し、教職員や生徒の記憶からも消えてしまうのだという。Qと呼ばれる男子生徒は、家が近いことから毎日始業より1時間も早く登校し、クラスのグループチャットに黒板の写真を投稿する役割を押しつけられている。クラスの中の権力関係の背景には、Qの父が公務員であり、税金で学費が免除されていることへの嫉妬と羨望があるらしい。

人間が失踪するというテーマは『Delete/デリート』にも見られたが、このドラマでは生徒同士のやりとりに見え隠れする感情的強迫や、相手に罪悪感を植え付けて思いどおりに行動させる心理戦がいやな味わいを残す。

タイの学校では、「教科書を忘れる」というのが都市伝説のモチーフになるほど、ひどく叱られることらしい。個人ロッカーにいわゆる「置き勉」することが許されず、毎日教科書やノートを持ち帰らなければならないというのが、日本と同様に一般的な規則なのだろうか。

 

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第2話 復讐の呪文(Vengeful Spell)

Puttipong Saisrikaew 監督。ある呪いによってクラス全員が死亡したと伝えられる教室。現在は用具室として使われているが、その天井の穴に隠された箱から呪文を書いた紙が発見される。

主人公の少女は、男子生徒とタッグを組んでホラー映画の制作中。学校の怪談に想を得て脚本を執筆するが、ちょうどその時、自分の元彼を奪った女子がSNSに自分の悪口を書いているのを目にしてしまう。おまけにそれに同調するコメントをつけた女子まで。恨みで心がいっぱいになった主人公は、箱の中から見つけた紙に書かれた通り、足の裏に殺したい相手の名前を書いて呪文を唱える。

呪われた相手は幻覚に支配され、恐怖に取り憑かれて自殺することになる。その自傷描写がかなり執拗で、ティーン向けかと思ったら意外とゴア度が高かった。

第3話 美しさの代償(Beautiful)

Songsak Mongkolthong 監督。主人公は肌のトラブルに悩み、エージェントとモデル契約をしている学校一の美少女に憧れる。「何でもするから美しくなりたい」と検索した彼女は、あるサイトにたどり着き、同意ボタンを押下。届いた薬を飲み干した途端、肌はつるつるになり、誰もが振り返る洗練された美少女に……。

人気度が可視化されるSNSで、ボディイメージが損なわれてゆくというありがちなテーマだが、抜け首妖怪ペナンガランと結び付けられている。男の内臓を貪り食うという性的な暗示もあるものの、出産とは無関係に少女が妖怪に化すというめずらしい設定。しかも、異性からの視線が主な問題にされるのではなく、女同士の美の競い合いが契機だという点も。


第4話 屍の書(The Book of Corpses)

Nuttapong Wongkaveepairoj 監督。みなおかっぱ頭で、鉛筆を使っている80年代(?)の女子校。インターネット以前の図書室怪談で、トイレに閉じ込められて自殺した少女が綴ったという本が図書室には隠されており、そこに新しい物語を書き加えるとその通りになるという。主人公の転校生は、ボス格の生徒による強要を見かねて校長に伝えるが、それが契機となって激しいいじめの対象になる。さりげなく助けの手を差し伸べてくれた司書教諭からその怪談を聞き……。

身体的暴行を伴ういじめの描写と、古くて汚いトイレでの場面がかなり長く、食事中に観るのはお勧めしかねるエピソードだ。髪の毛を切る暴行に加え、抜毛症を想像させる描写もあり、後味の悪さでは群を抜く。津原泰水「夜のジャミラ」を思い出したが、身体変容の部分はドラマの創作なのか、それともタイの学校怪談にも類似のパターンがあるのだろうか。

 

 

第5話 首なし教師(The Headless Teacher)

Phontharis Chotkijsadarsopon 監督。一転して男子校の寮を舞台にしたコメディに。生徒にがみがみと口やかましい女教師は、教職員にも高利で金を貸し付けてしつこく取り立てている。彼女の鼻を明かそうと、生徒たちは似顔絵漫画を貼り出したり、幽霊の真似で脅かしてやろうといたずらを仕掛けるが、何と脅かそうとした教師は首なし幽霊になっていた。翌日、首の切断された遺体が校内の花壇から発見される。首を探してくれ、と先生の幽霊に頼み込まれた生徒二人は、首なし先生と一緒に怪しい場所を探るが……。

途中で突然のBLパロディが挿入されたり、ギャグシーンがやや冗長だが、殺人の背景には校内性暴力があることが判明する。目撃された案件は現実ならきっと氷山の一角で、その後の調査がむしろ重要なところだが、ドラマはとりあえず先生が首を取り戻したところでめでたしめでたし。

第6話 ランチ(Lunch)

Songsak Mongkolthong 監督。高校の食堂で急に人気が出た豚骨スープの店。しかし一人で店を切り盛りするおばさんには、違法薬物の売人と噂される息子がいる。スープにも大麻が混ぜられているのでは? と疑った高校生のライブ配信者が、スープが売り切れた隙を窺って鍋の底を確かめると、犬の頭骨が転がり出る。一部始終がライブ配信され、店のおばさんは「犬や猫の肉を食べさせた悪魔」とネットで中傷の嵐に。*1

「真実を暴く」ことで再生数を伸ばしたい配信者と、映った部分だけを見て単純に善悪の二元対立の枠で理解し、悪を叩く快感に酔うネットユーザーたち。しかし、鍋に入っていたのが犬ではなく鶏の頭骨であったとの鑑定結果が公開されたことで、たちまち配信者はネットいじめの首謀者として叩かれる側に陥ることになる。全校集会で謝罪するよう教師に指示されるが、どうしても納得のゆかない彼は、おばさんが犬猫を袋に入れて撲殺し、食材にしていたというストーリーをでっち上げようと、夜の食堂に潜入する。

やみつきになるスープの都市伝説と、SNSによって瞬時に拡散、加速される恐怖を織りまぜた構成が巧みで、飽きさせない作り。ショックシーンは控えめで、ストーリー展開もだいたい序盤で予測がつく通りだが、意外性を狙わず、それでもつい見たくなる編集はこのシリーズで出色。


第7話 呪い(The Curse)

Saniphong Suddhiphan 監督。廃校舎の保健室でドアに背を向けて車椅子に座ると、養護教諭の幽霊が現れて願いをかなえてくれるという学校の怪談

いじめられている秀才が、卒業のかかった試験の朝、いじめっ子三人組に無理やり車椅子に縛り付けられ、自分たちの合格を祈るよう強要される。だが彼が祈ったのは……。

いじめの描写がかなり執拗だが、教室内の微妙な権力構造を描くことではなく、暴行や強要の詰め合わせといった具合。いじめられる側にも原因があるという筋書きを強化しかねない危うさがある。


第8話 夜の学校(A Walk in School)

Thanadol Nualsuth 監督。幽霊の非実在を主張する男子高校生。友人と二人で深夜の校舎に忍び込み、タイ伝統舞踊クラブと体操部に伝わる怪談の正体をライブ配信で暴こうとする。彼がそこまで幽霊を否定したい理由とは……。

序盤で落ちが分かるタイプの話だが、目立つ主人公と地味な親友という組み合わせに、ブロマンス的味付けがなされている。最終話なのであっさりと穏やかにまとめてあり、恐怖描写も控えめ。

 

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*1:おいしく頂いたのなら犬の出汁でも別によいのでは……という気もするが、犬肉は食材と禁忌の中間に位置するので、知らされずに食べた時の厭な感じが絶妙にリアルなのかもしれない。