Amazon Prime Video(日本語字幕はなし)で鑑賞。モー・ブラザーズの一人、キモ・スタンボエル監督作品。85年生まれのスンダ人女性作家で歌手のRisa Saraswatiの小説を原作とするホラー〈Danur〉シリーズ(Awi Suryadi監督)のスピンオフにあたるとのことだが、単独で見ても特に分からないところはなかった。原作は《Meruntih Berang Ivanna Van Dijk》(2018)。
1993年、イードを祝うため、バンドゥンでペンションを経営する祖父母宅に向かうアンバー(Caitlin Halderman)とディカ(Jovarel Callum)の姉弟。両親を亡くし、ふだんはアンバーが一人で年の離れた弟ディカを世話している。
アンバーは弱視で白杖を使っているが、目の手術をしてから人間ならぬ存在が「視える」ようになっている。敷地内に放置されている廃屋から、首のない女の座像が見つかったことで、次々と怪異が出現する。
女の正体はイヴァンナ、インドネシア生まれのオランダ人女性で、その土地を深く愛する一家のもとに育ったことが彼女の日記から判明する。しかも、1943年には日本軍によって屋敷を接収され、「慰安婦」にされていた(ここは具体的な描写はないので、性暴力の場面は映らない)。対日協力者となって生き延びたものの、それを知る地元の人々(プリブミ)によってリンチを受け、最後には日本兵に斬首される。
イヴァンナの最期は、アンバーが幻視するが、ほかの親族にも音声と影だけが感じ取れるというしくみ。
この一家が実はイヴァンナの殺害に加担した人々の子孫で……という展開かと思いきや、「私の血の一滴一滴がお前たちの呪いとなるように」というイヴァンナの怨念がだれかれ構わず発動したものだった。すべてを奪った日本兵への恨みより、何より愛し命を助けようとした人々に裏切られたことから、すさまじい怨霊と化したイヴァンナは、手当たり次第に情け容赦なく首をねじ切ってゆく。
女の座像の秘密がかなり猟奇的。そしてイヴァンナが「帰せ」と求める首は、井戸に投げ込まれていたことが判明する。このあたりはちょっと『リング』風味だと思ったが、過酷な運命の犠牲者であるイヴァンナの頭蓋骨はなお呪いの言葉を吐き、アンバーによって投げ捨てられ、その亡骸も灰燼に帰す。
痛ましさに対する共感や憐憫を一切受け付けず、理屈の通じない怨霊の造形が徹底している。日本占領期の犠牲者の、鎮魂を試みる余地もない憎しみと恨み。
首なしの日本兵の幽霊の話はよく聞くが、オランダ人女性の幽霊というパターンは異色かもしれない。
イヴァンナ役のSonia Alyssaの日本語がかなり上手で、丸暗記感がなく本当に話せる人のように聞こえる。日本兵を演じたのは加藤ひろあき。大学ではインドネシア語を専攻し、『虹の少年たち』の共訳者でもあり、インドネシア在住9年ということなので、カタカナ読みのようなインドネシア語はわざと日本人らしく喋っているのだろう。