Abhay Kumar『プラセボ あるインドの名門医学生の心理』(PLACEBO, 2014)

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インド・フィンランド合作ドキュメンタリー。ニューデリーの超難関校全インド医科大学(AIIMS)に通う弟の事故を受けて、監督はカメラを持って学生寮に乗り込む。寮の部屋のインタビュー映像に、アニメーションが挿入される構成。

最初のインタビュー相手は韜晦的で冷笑的なK、過去に弟と同様に窓ガラスを割って負傷し後遺症が残ったという。Kの友人の研修医チョプラは2009年にいじめで二ヶ月の停学処分を受けている。米国移住を望んでいるセティ、そして弟の四人を対象に二年間取材を続ける。

寮内のいじめの具体例として映る(ご丁寧にビデオ撮影されている)のは、新入生に課される諸々の儀式、そして屈辱的な行為。(小中学校時代に似たような行為はさんざん見聞きしていたのに、これも「いじめ」と訴えてよかったのか!と今さら気付く。日本ならパンツでも脱がされない限り「悪ふざけ」として片付けられてしまいそう)

寮内で繰り返されていたこうした多分にホモソーシャルな色彩があるいじめの再発を防ぐため、大学当局は上級生と下級生の交流を一切禁止する。その結果として、悩みを抱えた学生の孤立も進む。ある学生の死を契機に、学生たちが学長の辞職を求めて座り込みの抗議を行うが、要求は無視される。

学生たちは英語を話す家庭で育っているが、亡くなった学生はヒンディー語環境で育ち、英語で学ぶ困難を克服して入学したという。しかし亡くなる前には二度も落第し、学長に申し入れた面談も四度にわたり拒絶されていた。実家での葬儀の映像が挿入されるが、崩れかかった家に暮らす家族が、二十歳の医学生の息子を失ったと思うとやりきれない。

やりきれないといえば、取材した四人の学生のその後で、Kは2013年にシンガポールの医院で精神科のインターンとなったものの、半年後に失踪したという。「手術後に助けてくれたのは両親だけだ、兄さんだって横で見ていただけ、僕には助けが必要なんだ」と語っていた監督の弟は、最終的に医学の道を離れた。