ジェラルド・ジョンストン『M3GAN』(2023)

 ジェームズ・ワンジェイソン・ブラムの製作、『マリグナント』のアケラ・クーパーの脚本という人形ホラー。

 玩具メーカーで開発に従事する独身女性ジェマ(Tinderを使っているところからすると交際相手も今はいない様子)は、両親を失った姪のケイディを引き取ることになる。ベビーシッターにとプログラムしたAI人形ミーガンは、社内で好評を博し、正式販売に向けて進められることに。

 ペアリングしたケイディと過ごしながら学習するミーガンは、行動様式を最適化され、ケイディに危害を加える者を排除するようになる。対象は塀の破れからしょっちゅう侵入してくる隣家の猛犬、体験入学で一緒になった行動障害のある少年と、次第にエスカレートして……。

 ジェマの視点から映し出されるのは、噛み癖のあるしつけの悪い猛犬とその自己中心的な飼い主、行動障害のある少年と過保護な母親の姿。この少年に関しては、画面に映る部分のみで推測する限り、嗜虐的な性向に加え、性加害に発展する予兆も感じられる。「飼い主や母親が甘やかしすぎだったのでは」とミスリードされるが、やがてミーガンの暴走につれてその先入観への再点検が迫られる。手塩にかけて開発したAIでも、思うように制御できるわけではない。ましてや犬や人間の子供なら、飼い主や親の思いどおりにならないのも当然。
 AIが主人公と姪のケイディから学習したことを行動に反映してゆくなら、犬や少年を排除するような反社会的な行動の芽を育んだのは主人公自身だということになる。ままならなさを引き受けられない人間は、家族のようなつながりを持つことは一切望むな、と受け取れないこともない。障害物や危険をあらかじめ排除するのではなく、ままならなさも含めて関係を作ることが結局すべての基礎になる、という道徳的塗装がなされている。

 とはいえ、自分にはどうすることもできない親密な他者の反社会的行動として見れば、AIの暴走より怖い話になる。制御不能となったロボットなら罪悪感なしに破壊できるかもしれないが、噛み癖のある愛犬を安楽死させることに耐えられる飼い主は少ないだろう(噛み癖をつけた飼い主が悪いという非難は措く)。仮に我が子が殺人を犯したからといって、生殺与奪の権は親にはない。

 ミーガンの動きはかなりCG処理されているものの、未成年の女優(エイミー・ドナルド)が演じている由。カットが割ってあり、暴力を受けたりふるったりする場面もあるが、ボディダブルかCG処理なのだろうと安心して見られる。なお、スタッフクレジットに COVID Compliance Officer の項目があり、撮影現場の安全管理の一端を窺わせる。

 

m3gan.jp