ビブ・リー 『もう、帰る家がない』(I Don't Feel at Home Anywhere Anymore、2020)

 海外から北京に帰省した若い女性の8日間を描く16分間のセルフドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズの配信で鑑賞。台北国際ドキュメンタリー映画祭での中文クレジットはViv LI(李蔚然)『我在家中漸漸消失』。

asiandocs.co.jp

 テレビの前に座ってリンゴやトウモロコシをかじり、祖母を訪ね、親戚と集まり、旧友や別れた恋人に会う。その普通の8日間で、世界を捉える枠組みが、自分だけすっかり異なってしまったことを意識させられる。地元を離れた者は、往々にして地元の親戚や友人とは話題が合わなくなるものだろうが、北京のような大都市でも出国してしまえば「田舎」としての故郷になる。

 ほとんど芯だけになったリンゴを「あげる」と兄(?)に渡し、サッカーを見ながら上の空で受け取った兄がよく見て「クソッ」と文句を言いながらも普通に食べるシーンのユーモア。吸い玉を使う足裏マッサージも出て来る。

 リュックを背負った彼女が歩いて行って振り返るシーンでは、再びの門出を祝福するようなカササギの声が聞こえる。ゴミ出しの際に分別に困る不用品に自嘲を込めつつ、からりとした終わり方だ。

 家族や友人との会話に付く字幕は話題を要約しただけで、逐一訳されないが、だいたい話の流れは分かる。質問の意図を理解していても、あえて「啊?」とはぐらかす会話の呼吸から、しっくり来ないようでも実はちゃんと帰っていると見えた。


www.youtube.com

 監督のサイトに掲載されたプロフィールによると、1990年生まれで2023年現在ベルリン在住。学部卒業後にマンチェスター大学で演劇と映画を学び、世界の様々な土地に滞在しながら、映像作家、文筆業、コメディアンと幅広い活動をしている様子。

https://viv-li.com/