サイ・コン・カム 『ミャンマー鉄道の旅』(Train、2014)

 車内の人々を映す20分間の鉄道の旅。アジアンドキュメンタリーズの配信で鑑賞。

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 「ガタンゴトン」というより「カッタン、コットン」とゆったり進む車両は、木の床で窓際に堅いベンチがあるのみの簡素な作り。座席のない車両にはつり革がある。昔の省線のようにドアもなく、開いたまま進み、外の光を頼りにドア前の床に腰を下ろして新聞を読んでいる乗客も。ホームから出発しつつある車両に飛び乗ることもできる。市街地以外でもさほどの速度は出ないようで、飛び降りてもせいぜい足の骨を折るくらいだろう。駅のホームは高く作られておらず、線路をまたいでひょいと反対側に行けるので、列車が近付いて来ても、人も犬ものんびり渡っている。

 農家の人々がその日の野菜を市場に売りに行くのか、大量の菜っ葉を籠に入れた人々で満員になる区間も。京成線は2000年代はじめまで行商専用車両があったが、荷物を背負いはしないもののあんな賑やかさだ。

 駅に着くたびに物売りが乗り込んで、カレンダー(占いつき)や犯罪事件専門の週刊誌、果物などを売りさばく。何かの果実を売っていた女性が、いかに健康によいかを並べ立ててから、最後に「レイプドラッグの解毒にも」と言うので跳び上がりそうになる。こんなのんびりした田舎の景色の中でも、車両を一歩出たらいくらでも危険が待っているというのだろうか。

 運転席には何やら日本語で操作手順らしいシールが貼っているように見えた。もしかして地方の路線で使用されていた車両が、ミャンマーに輸出されて現役なのだろうか。

 撮影・製作は2014年、もう10年近くが過ぎ、「写真撮って、一枚、やっぱり二枚!」とポーズを取っていた少女たちも年頃の娘さんだろう。窓側に腰かけて一心に手を合わせていた中年の女性も、ひとりひとりがどんな人生を送っているのか、どうか幸福であってほしいと思う。


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