ドゥニ・ヴィルヌーヴ『DUNE/デューン 砂の惑星』(Dune、2021)

 砂漠の砂から「スパイス」と呼ばれる物質を精製可能な宇宙で唯一の惑星アラキス。その統治を命じられたアトレイデス家は、以前にスパイス貿易で巨利を得ていたハルコンネン男爵が企てる陰謀に巻き込まれる。

 アトレイデス家の跡取り息子ポール(ティモシー・シャラメ)を中心に話が進むが、特殊能力を持つ母と共に窮地を脱し、砂漠の民フレメンのもとに身を寄せたところで後編に続く。

 砂漠の環境に順応し、青い目を持つフレメンの人々は、生身の人間が砂漠で生き抜くことを可能にする高度な技術も備えている。衣装からすると、アラビアや北アフリカの砂漠に暮らす人々の文化を参照したようでもあるが、前編だけ見た段階だとティモシー・シャラメ貴種流離譚にも見える。原作ものの映画だが、2020年代に白人の貴公子とネイティヴの娘が愛し合う話で終わるのでは困るので、後編で植民地の住民をどう描くのかは問われるところだろう。

 砂漠に生息する巨大かつ危険なサンドワームの歯で造った"crysknife"という短剣が登場する。音だけ聞いて、マレー語のkerisから取ったのかと思ったが、綴りを見るとcrystal由来らしい。舞台は砂漠だが、「スパイス」こと香料貿易という設定は東南アジアを想像させもする。

 張震チャン・チェン)が医者役でちらっと出て来たことをメモ。アクションシーンがあるのかと思ったのに、「表情の読めない中国人」というステレオタイプの配役だったのは不満だ。

 妻を敵の人質に取られて裏切りに走るというのは、いかにも米国人の発想のような気がした。アジア映画なら、老母を人質にというのはやり過ぎの感があるが、年頃の娘か跡取り息子を誘拐するのではないかと思う。

 最後に、10191年(もはや西暦なのか何なのか分からない)という設定で、惑星間移動が可能な技術を持った人類が、にもかかわらずコンバットスーツでやたらと白兵戦を演じるというのがかなり不思議。銃器はほとんど用いられない。もっとも、ミサイルを用いるような「戦争」と称されるものではなく、各地の「紛争」では現在もナタや斧による襲撃が行われたりするのだから、8千年後の人類も結局生身の肉体による戦闘からは逃れられないのかもしれないが。