山老鼠(盗伐者/共産ゲリラ)

 「山老鼠熱點公布 學者:讓更多人緊盯」との見出し。台湾では林木の違法伐採など山林資源の窃盗犯を「ヤマネズミ」と俗称する由。

udn.com 詩経に「碩鼠碩鼠,無食我黍」とあるように、ネズミは古来泥棒の代名詞にされて気の毒な話だ。

 他方、マレーシアでは山に潜伏した共産ゲリラも俗に「山老鼠」と称される。

一怒之下,二舅媽和幾個小時玩伴就跑到山裡去當山老鼠了。你媽竟然也在裡面。

最離奇的是,在艱苦的軍旅生涯中,她們都各自和部隊裡的人結了婚——當然都是極簡單草草的婚禮。

黄錦樹「帰来」(『雨』,台北:寶瓶,2016,60頁)

(腹立ちのあまり、二舅媽(母方のおじの妻)は数人の幼なじみと山に奔って「ヤマネズミ」になった。おまえの母さんもその中にいた。

いちばん奇妙なのは、つらい行軍生活で、彼女らはそれぞれ部隊の男と結婚したことだ――もちろんきわめて簡単でそそくさとした婚礼だったが。)

 台湾の作家黄錦樹はマレーシア出身で、邦訳に『夢と豚と黎明』(人文書院、2011)がある。自ら「魯迅の字数」と称するように、一貫して短篇小説の可能性を追求しているといってよいだろう。マレーシアの歴史や社会を描く寓話的な側面に目が行きがちだが、同時にすぐれた幻想小説の書き手でもある。

 「帰来」は今のところ一番新しい短篇小説集『雨』に収録される。ほら話の名手であるおじが語った森の中での事故の経験を、主人公「おまえ」が追想し解釈しようとする。なかなか複雑な構造の夢語りで、語られない部分へと読者の想像をかき立てる、ストーリーテラーとしての黄錦樹の面目躍如たる一篇だ。

 

夢と豚と黎明: 黄錦樹作品集 (台湾熱帯文学)

夢と豚と黎明: 黄錦樹作品集 (台湾熱帯文学)