槍花

 張愛玲『小団円』再読中。初読時に比べていくらかは読めるようになっているかと思いきや、読めないところはいつになっても読めない。

她儿子进宝一度由盛家托人荐了个事,他人很机灵,长得又漂亮,那时候二十几岁,枪花很大,出了碴子,还是韩妈给求了下来。
(彼女の息子の進宝は一度は盛家のつてで勤めに出たことがあり、気が利いて見栄えもし、当時は二十何歳かだったが、「槍花」が大きく不和となり、結局は韓媽が詫びを入れて引き取ったのだった)

 いくつか辞書を調べてみた。

  • 漢語大詞典
  1. 犹花腔。比喻花言巧语。《冷眼观》第十四回:“我们吃堂子饭的,同客人离了打誑语掉枪花,还有甚么戏唱呢?”
  2. 武术中枪术变化的一种花招,可以使对方对自己的动作发生错觉。 老舍 《断魂枪》:“为躲那对眼睛,王三胜耍了个枪花。”
  3. 比喻手段,手法。 鲁迅 《花边文学·“大雪纷飞”》:“这回的‘大雪纷飞’里,也没有‘一片一片’的意思,这不过特地弄得累坠,掉着要大众语丢脸的枪花。”
  • 近代漢語大詞典(許少峰編、中華書局)

花言巧语,耍滑。

例文は大詞典の1に同じなので略。

  • 現代漢日辞海(=中国語大辞典)

①武術あるいは部劇における長やりの使い方。②(方)(巧妙な)手口. 手練手管. 小細工. =‘花招(儿)’;(呉). 〈出~〉〈掉~〉小細工をする.

 勤めを続けられなくなるような問題になったのだから、口先ばかりうまいことを言っておいてあれこれ小細工を弄したのが、派手にやりすぎて露見したということか、それとも口ばかりでまともな仕事をしないと嫌われたのだろうか。“碴子”も問題や不和、溝を指すのだろうが、具体的にどういうことかよくわからない。
 張愛玲の文章で読むのに苦労するのは、具体的な出来事にしても登場人物の心情にしても、誤解の余地のないよう余分な部分を切り取るような書き方ではなく、ピントを克明に合わせはせずにわざと少々甘いままにしてあるせいかもしれない。そこで用いられる語のニュアンスがよくわかっていないと読み飛ばしてしまうが、よく読むと錐で突き刺すようなことが書いてあるのだから、哇,到底是上海人!