パブロ・ベルヘル『ブランカニエベス』

ブランカニエベス Blu-ray

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 千葉劇場にてスペインのパブロ・ベルヘル『ブランカニエベス』。
 2012年の新作だが、モノクロで台詞を字幕で見せる無声映画風の作り。ただし人物の台詞以外の音声は当てられている。舞台は1920年代のアンダルシアだそうで、衣裳や調度は細部まで当時を再現しているとのこと。鮮烈な色彩を想像させる白黒の画面、手拍子に合わせて画面の切り替わる編集など、瞬きするのが惜しい。
 父の闘牛士(ダニエル・ヒメネス・カチョ)は牛の角にかかって首から下が不随となり、母は出産の床で命を落とすという、血の呪いのもとに生まれた少女カルメン(幼児期ソフィア・オリア、のちマカレナ・ガルシア)。後添いにおさまった元看護婦エンカルナ(マリベル・ベルドゥ)によって父から遠ざけられ、祖母(アンヘルモリーナ)に育てられる。
 しかし聖体拝領の日に祖母が急死、父の屋敷に引き取られるが、継母によって父と会うことは厳しく禁じられ、下働きを強いられる。一方で継母は財産を手に入れた以上、夫が邪魔でならず、車椅子に閉じ込めたまま二階に放置し、自分は愛人と肉欲に耽っている。この邪気の漂う、美しい継母がすばらしい。
 この継母に復讐し、父を救出して愛を取り戻す物語かと思いきや、彼女はひょんなことから小人の闘牛士に救われ、彼らと旅をするうちに女闘牛士として脚光を浴びるようになる。
 父に愛されることではなく、父に自分を同一化させることでカルメンの人生はクライマックスを迎える。牛か闘牛士か、いずれかの血が流されない限り闘牛は終わらないものだろうが、意外な展開で無血のままカルメンのメジャーデビュー戦は終わりを告げる。彼女は生まれた時におびただしい血が流されたためか、自身の血で競技場を彩ることは許されていない。生まれて間もない彼女を、ガラスの棺のような寝台に寝かせて父の病室に運んだ継母の呪いは、彼女を美貌の女闘牛士として成功させてはおかない。美しく化粧を施されガラスの寝台に横たえられ、王子の口づけを待つだけの存在であり続けること、そして血ではなく涙しか流せないこと、この死より恐ろしい母の呪いによって、凄惨な美が完成されている。

原題:Blancanieves
制作年:2012年
制作国:スペイン・フランス
時間:104分
言語:サイレント、英語字幕
監督・脚本:パブロ・ベルヘル(Pablo Berger )
製作:イボン・カルメンサーナ(Ibon Cormenzana )、ジェローム・ヴィダル(Jérôme Vidal )
製作総指揮:ジェレミー・バーデク(Jeremy Burdek )、イグナジ・エスタペ(Ignasi Estapé )、ナディア・カムリッチ(Nadia Khamlichi )、エイドリアン・ポリトウスキー(Adrian Politowski )、ジル・ワテルケン(Gilles Waterkeyn )
出演:マリベル・ベルドゥ(Maribel Verdú)、ダニエル・ヒメネス・カチョ(Daniel Giménez Cacho)、アンヘラ・モリーナ(Ángela Molina)、マカレナ・ガルシア(Macarena García)、ソフィア・オリア(Sofía Oria)、ホセ・マリア・ポウ(Josep Maria Pou)、インマ・クエスタ (Inma Cuesta)
撮影:キコ・デ・ラ・リカ(Kiko de la Rica)
編集:Fernando Franco
音楽:アルフォンゾ・デ・ヴィラロンガ(Alfonso de Vilallonga )
衣裳:パコ・デルガド(Paco Delgado )
美術:アラン・ベイネ(Alain Bainée )