ジュリア・デュクルノー『TITANE チタン』(Titane、2021)

車の事故の後、頭蓋骨の手術で右耳の上にチタンプレートを埋め込んだ少女アレクシア。長じてレースクイーンとなった彼女は、自動車と交歓し身ごもることに。

箸形のヘアスティックで髪をまとめるシーンにぞっとするが、果たして予想通りの展開に(「おはしさま」か……)。彼女はそのペニスで次々に男女の体を貫き、やがて失踪した息子を待ち続ける消防士の息子アドリアンになりすます。

サイボーグ的な殺人者アレクシア/アドリアンは、乳房とふくらんだ腹部をきつく巻いて隠し、防護服に身を包んで消防士として働くようになる。しかし胎動とともに、身体のあちこちから黒いエンジンオイルのような液体が滲み出る。

「她」でも「他」でもなく、「釶」とでも呼ばれるような存在に変貌してゆくのかと思いきや、「父」のもとで「アレクシア」としての出産に至る結末にはやや拍子抜け。破壊的なエネルギーが結局出産に蕩尽されるのか。しかし子宮を備えた神の子イエスの単性生殖に始まる、チタンの背骨を持つ新人類の創造神話と解すればよいのかも。

少し前にキム・チョヨプ/キム・ウォニョン『サイボーグになる』(牧野美加訳、岩波、2022)を読んだところで、頭蓋固定具という人工補綴物が、ジェンダーや家父長制に打ち込まれるくさびとして表象される点は気になる。しかし、人工補綴物が契機でなければならなかったのか? チタンプレートを埋め込まなくても、車と日常的にセックスをしている人はそれほど珍しくもないような気がする。殺人に理由がいらないなら、無機物に欲望するのにも理由はなくてよいのでは。

ところで、日本では心臓マッサージはアンパンマンマーチに合わせるとよいとよく言われるが、どうやらフランスでは『マカレナ』らしい。

 

TITANE/チタン [DVD]

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