鄭清文『丘蟻一族』

丘蟻一族

丘蟻一族

 最初は彼らも一点の不安を感ずることがあったかもしれない。時には、ちょっと顔を赤らめたに違いない。しかし、休む間もなく、ウソを言い続けてゆくなら、不安を感じなくなり、顔が赤くなることさえもなくなるだろう。ウソをつくなど、何ほどのことでもない。顔を赤らめる、それこそ欠点というべきだ。顔を赤らめる状態から、赤らめなくなってゆく、それこそ成長と呼ぶべきだ。(19頁)

 鄭清文『丘蟻一族』(西田勝訳、法政大学出版局、2013)。「丘蟻一族」「天馬降臨」の二篇に加え、2011年の日本での講演録「なぜ童話を書くのか」が収録される。
 「丘蟻」というのは蟻塚を作る白アリだそうだが、白アリはアリの仲間ではなくゴキブリ目に属すと初めて知った。
 この政治的な寓意の色濃い作品を、著者は童話として書いているとのことだが、だからといって一般に想像されるような意味で子供向きの平易な作品ともいえない。意外と子供は敏感に寓意を読み取るかもしれないが、嘘つきの変身する白蟻の物語を、何か背後に潜むものがあるように感じながらそのまま受け止めたとしても、数年後に政治ニュースを見ながらふと思い出して、白蟻の一族とはこういう物語だったのか、と忽然と理解するのかもしれない。そんな種を埋め込むとすれば、本当の意味で子供向きの作品といえるだろう。