ハ・ジン「シャオナの秘密」

 

アメリカ短編小説傑作選 2001 (アメリカ文芸年間傑作選)

アメリカ短編小説傑作選 2001 (アメリカ文芸年間傑作選)

 

 エィミ・タン編『アメリカ短編小説傑作選 2001』(DHC、2001)より、ハ・ジン「シャオナの秘密」(In the Kindergarten/高木由紀子訳)。
  全託(週末だけ家に帰りあとは寮で寝泊まりする)の幼稚園に入園して二週目のシャオナ。三週間前に弟が生まれ、両親の愛情が目減りするのではと心配している上、家が恋しくて昼寝の時間にはめそめそ泣いている。
 ほかの園児と一緒に、担任のシェン先生に連れられてカブ畑にスベリヒユを摘みに行くことになる。夕食に炒めて出すとの先生の言葉に、皆はりきって袋いっぱい摘んだものの、なぜか夕食には供されない。シャオナは先生が持ち帰ってしまったのだと知る。
 おまけに、家から持ってきた大切な落花生が、昼寝の間にセーターのポケットから消えてしまう。先生が取り上げたのだと考えたシャオナは復讐に出る。

その日、幼稚園に来て以来初めて、心ゆくまで食事を楽しんだ。サツマイモを三つと、トウモロコシ粥を二杯、それに揚げナスだってスプーンに何杯も食べた。夕食後も、気持ちが高ぶるあまりに、男の子たちの兵隊ごっこに加わって、おもちゃのピストルを持ち歩いた。なんだか自分が急にお姉さんになったみたいだった。シャオナは思った。これからはもう、赤ちゃんみたいに夜泣くこともなくなるだろうと。(283頁)

 冒頭には先生が電話しているシーンがあり、中絶の費用が支払えずに困っていることがわかる。横領罪で懲役刑に処された夫とは、前年の夏に離婚しているということなので、これはひとりっ子政策に従っての中絶ではなく、他人に知られてはならない事情があると読者にはわかる仕掛け。
 スベリヒユを集めてどうするのかとしばらく考えたが、「馬歯莧」(ばしけん)の名で漢方薬として用いられるそうで、子宮収縮の効果があるというから、中絶後の出血を止めるために自分で服用するのだろうか。
 王朔の『看上去很美』にも幼稚園の閉塞感が書かれていたが、男児にとっても女児にとっても、幼稚園は人生で最初に理不尽を体験する場所なのかもしれない。