ユン・ジュンヒョン『トンソン荘事件の記録』(마루이 비디오、2023)

 舞台は釜山。1992年、旅館〈トンソン荘〉で若者が恋人を殺害する事件が起こった。犯人はその一部始終を撮影していたが、検察庁に保管されているそのビデオテープには、ありえないものが映っているという噂がある。2019年、取材班がその映像について調べる過程を記録したという設定のモキュメンタリー。ファウンド・フッテージものではあるのだが、番組として構成された形で、サウンドも劇映画的な調子が続く。

tonsonsou.com

 鏡に映り込んだ学生服の少年について取材班が調査を進めるうちに、80年代初頭に起きた別の殺人事件が浮かび上がって来る。少年が母と妹を殺害した上、焼身自殺を遂げたという不可解な事件で、現場は今なお廃屋だ。そこでまじないが行われた形跡を発見し、取材班は祈祷師を訪ねる。韓国ホラーでは除霊の儀式につきものの鶏のけたたましい声が、この作品でも不気味な効果を上げている。

 ただ、ショック・シーンを連打するタイプのホラーではなく、中盤までの取材パートは平坦で退屈にすら感じる。ベトナム帰還兵の存在が取材クルーに意識された頃からゆるやかに調子が変わり、「封印されたビデオテープ」に隠された事件の真相がゆっくりと水面に浮かんでくる。

 韓国の現代史をもっとよく知っていれば、ベトナム戦争の英雄であった帰還兵が枯葉剤の被害者であると同時に、近年は加害者としての側面から取り上げられるようになっていることがすぐに連想されたかもしれない。帰還兵が「福祉施設」に長期入所した後に生を終えたことになっているが、当時の報道として挿入される映像から受ける印象は、心身に傷を負った元兵士の治療や支援というより、矯正を目的とする施設のようだ。ホラー映画の体裁を借りながら、2019年という時間軸を設定し、過去のベトナム帰還兵の表象をたぐり寄せようとしているようにも思われる。恐らく見過ごした細部に、韓国の観客にとっては自明の情報があるのではないかと思う。解説付きで見たい気がする。