レザ・ファラハマンド『爆薬の耳飾りをつけて』(Women with Gunpowder Earrings、2018)

 イラク軍の対ISIS作戦の前線、ほぼ廃墟と化したヤジディ教徒の街コチョ、そしてISISメンバーの家族の収容所を取材する女性ジャーナリスト(Noor Al Helli)。『いつか祖国へ ーIS戦闘員の妻たちー』は主に欧州から単身シリアに渡った女性たちに取材していたが、こちらはイラクのISIS支配地域の女性と、トルコやチェチェンアゼルバイジャンといった地域の出身者に取材している。アジアンドキュメンタリーズの配信で視聴。

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 ヌールはジャーナリストとしてカメラを回すだけではなく、積極的に関与し、軍と女性たちの間に立ったりもする。赤ん坊のおむつがほしいが恥ずかしくて言い出せないという女性に代わって支援物資を受け取り、手渡す様子も記録されている。ISISメンバーの妻たちより、彼女たちとやりとりするヌールの姿が主軸といってよさそうだ。自身五人の子の母であるという彼女は、子供の扱いに慣れており、幼い子供を抱えた母親たちの中に入って話を聞き出す。ただし皆がアラビア語を解するわけではなく、通訳を介してのやりとりになることもあり、必ずしも核心をついた言葉を引き出せるわけではない。カメラに対して警戒した様子が見られるのは、カメラクルーが男性らしいことも関係するかもしれない。

 ISIS支配地域にあっては、支持者と反対者、加害者と被害者という構図で単純化することができず、取材当時はカメラの前でそれぞれ思うことを率直に表明するのも憚られる状況でもあったようだ。彼女たちの言葉をどう解釈するかは、その地域社会の状況をよく知らないと困難だろう。

 夫が戦死するか帰国するかして、ISIS支配地域に取り残された外国籍の妻とその子もいれば、質問を半ば躱すようにしつつ、ISISへの共鳴を隠さない女性もいる。夫はただの整備工で人を傷つけたりはしていない、と戦闘への参加を否定する女性に、ヌールは「車の修理というのは自動車爆弾でしょう」と繰り返したたみかける。テロリストとして罪に問われることを考えれば、はっきり知っていてもカメラの前では答えられないだろうし、突き詰めて考えないようにすることで自分を守ってもいるのだろうと思う。

 なぜイラクに来てISISに加わったのかを尋ねられて、ある女性は激昂する。「米国もイランもイラクも爆弾を浴びせるばかりで自分たちには何もしてくれなかった、ムスリムとしてよりよい生活を求めることの何がいけないのか」。

 ヤジディ教徒たちに対する残虐行為は衝撃とともに広く報じられたが、壊滅的な被害を受けたコチョの街でのインタビューは、現場となった学校で行われる。壁にはぐるりと男たちの遺影が貼ってあり、少年が一人ずつ親族を指差しながら、自分との関係を説明する。女性の証言によると、学校には女性と子供、そして族長だけが集められた末、子供たちは斬首され、母親も全員が殺害されたという。その夜に何が起きたのかについては、かろうじてつかみ出したような断片的な言葉が投げ出される。兵士が殺害した子供の肉を食べるよう母親に強いたという発言がカメラに収められる。

 収容所の子供たちからは、隣人に勧誘されてISISに加わった子ども兵について語られる。脅されて脱けることができないまま、戦闘で死んだ少年。

 最後に、これまで取材する側だったヌールが、自分の兄もISISによって殺されていることをカメラに向かって明かす。兄を殺した者の妻たちに数日にわたって話を聞いても、何もできなかったと。

 運転手の男性が「誰が悪いわけでもない」と激しい感情を見せる場面があったが、残虐行為の主体はカメラの前に現れない。そこに映る一人一人はそれぞれの家族の構成員としてごく普通の顔を見せており、組織の中ではどんな役割を果たしたのかも突き止められないし、頭のない蛇が身をくねらせているようなつかみどころのなさが残る。

 監督は Reza Farahmand、プロデューサーは Morteza Shabani 。

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