Alba Sotorra『いつか祖国へ ーIS戦闘員の妻たちー』(The Return:Life After ISIS、2021)

シリア北東部の収容所で、西洋諸国からシリアに渡りISISに加わった女性たちの生を二年にわたって取材したドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズの配信で鑑賞。

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 女性たちの出身国はオランダ、ドイツ、英国、米国、カナダなどで、撮影時点では出身国から入国を拒否され、市民権を剝奪された人もいる。監督はスペイン人女性、インタビューに答えているのはみな英語話者だ。

 ISISに参加した理由も背景も年齢も様々で、必ずしも全員がムスリム家庭に育ったわけではない。ムスリムコミュニティとの接触が限られた環境で厳しい家庭に育ち、将来への希望も持てず、インターネットでISISのプロパガンダ接触し、シリアの同胞のために力になりたいと思うようになったケースもあれば、子供が大きくなって自分の居場所が欲しかったというケースも。

 しかし、シリア渡航後は行動を制限され、独身女性は劣悪な環境での集団生活を強いられることになる。外に出るためには結婚するしかない。夫から虐待されることもあれば、夫が戦死した後に再婚を強制されることもある。結婚生活に問題がなかったとしても、女の性役割は家で子育てをすることに限られている。皆が助け合うイスラーム共同体を思い描いていたのが、そうではないことに気付き始める。

 クルド人女性が収容所内でワークショップを行い、経験を文字にすることや、互いに信頼し合うためのゲームを通じて、元戦闘員の妻たちの間に連帯を築いてゆく。この女性もISISの攻撃によって親族や友人を失っているが、女性たちは皆被害者だという立場から、収容所内で支援活動を行っているという。

 カメラの前で語る経験はある程度消化されたものであり、監督も虐げられた女性たちとして彼女らを描くことには抑制的である。暴力や戦闘についての語りは限られるが、あるいは自分が見聞きした話や知人の話として語る出来事の中に、自身の体験も含まれているのかもしれない。

 彼女たちは人生経験も少なく(いちばん若い女性が渡航したのは15歳の時だという)、イスラームの教えについてもよく知らないまま、プロパガンダを信じて結果的に戦闘に加担することになり、出身国からはテロリストの烙印を押され、故郷に帰れる見通しも立たない。信仰とは無関係に、戦闘員と資金を集めるために利用されたのだともいえるだろう。観ていて感じたのは、のめり込んだ対象がISISだったのに特に理由はないのではないかということ。物足りなさや居場所のない感覚、あるいは孤独につけこまれたのであれば、世界中で多くの若い女性が同じような危険にさらされているのだと思う。家から出たかったり、今の自分を捨てて充実した生活を送りたかったり、誰かに必要とされている感覚が欲しかったりということなら、どんな犯罪組織であれ格好の標的になる。カルトであれ自己啓発セミナーであれ、国際ロマンス詐欺であれ、ごく普通に生活しているだけではまりかねない罠はいくらでもある。彼女らの払うことになった代償はあまりに大きすぎるように感じられる。

 ただ、取材の対象となったのは無数の女性たちのうちごく数人で、収容所内でも様々な立場がある。過激派に属する女性たちも同じ場所で暮らしており、テントの入口を塞いでの放火殺人まで起きたという。海外メディアの取材を断ることはできないが、答えた内容が報じられれば、皆スマートフォンでニュースにアクセスできるので、どう思われるかと常に戦々兢々としていなければならない。また、メディアの側もあえて答えにくい質問をして、テロリストのイメージを作ろうとしているとの不信感もある。

 このドキュメンタリーはそうした女性たちを集団として記録しようとしているのではなく、夢が破れて自分の失ったものの大きさに直面せざるを得なくなった彼女らが、互いに一緒にいることで希望をつなぎ、生き延びようとする姿を点描しているように見える。

 2023年にはフランスで元戦闘員の妻子の帰国が進められているそうで、他の国もいずれ個別に精査して帰国を認める方向に動く可能性はあるだろう。合間にまだ幼い子供たちの姿も映るが、この子たちにとってのキャンプでの二年間は、人生の半分以上に当たるのだろう。とはいえ外国籍のケースに限らず、ISISメンバーの家族たちは同じ収容所に暮らしており、同じように「その後」の時間が流れ続けているのだと思う。

 

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