黄威勝・賀照縈『西索米~人の最期に付き添う女たち〜』(西索米-陪他到最後、2018)

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 台湾の短編ドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズの配信で鑑賞。台湾で葬式の際に雇われるマーチングバンド西索米(シソミ)、日本統治期からの習俗だが、15年ほど前*1からはミニスカート姿の女性たちが主流になったという。男性たちが悲しげな曲を奏でたのに対し、彼女らはアップテンポの曲も取り入れ、新たな工夫に努めてきた。

 一日の収入は悪くなく、現金払いなので、中高でブラスバンドの経験のある女子には魅力的な仕事のようにも見えるが、台湾中南部の酷暑の中、また風雨にさらされる日も、連日二、三件の葬式行列でマーチングを続けるのは肉体的に過酷な仕事だ。さらに、人の死に触れるので不浄だと忌む目もあり、店から出た後に塩を撒かれることもあるという。

 団員は若い女性とはいっても母親も多く、泣いてすがる小さい子供を家において仕事に出ることも。取材対象の楽団はもともと農作業の副業として立ち上げられたものを、創設者の息子の配偶者が継いだという。自分で運転してほかの女性メンバーを送迎し、パフォーマンスでも主指揮を執る。しかし家に帰れば母であり妻であり嫁でもあり、夕食はできるだけ自分で作るという。仕事と家庭の間で自分の役割をこなす秘訣は「テーブルいっぱいおいしい料理を作ること」。農村の生活では家族が集まって食事をするのは大切な時間、食事の準備にも達成感があると。

 毎日2~3件の葬式で演奏し、遺族の気持ちに寄り添いながら、死者をにぎやかに送り出す*2。台湾では豪勢な葬式行列を仕立てるのが死者への孝養でもあり、近所にも面目が立つのだそうだ。とはいえ、近年は大家族も減り、参列者がわずか親族数人という葬儀も少なくなく、死者を火葬場や墓地まで見送る彼女たちの仕事は、いっそう重要になっている。仕事で大切なことはと聞かれ、口を揃えて「同理心(共感)」だと答えるのが印象的。


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*1:2018年の製作なので、2000年代初頭か

*2:肌を露出しない伝統的な踊りの女性チームはちらっと映っていたが、さすがにポールダンサーを招く例は取り上げられなかった。