アスリ・オザルスラン 『私の心、レイラ』(Dil Leyla、2016)

 トルコ東南部の国境近く、クルド人地域の都市ジズレ(Cizre)で、1993年のノウルーズ(正月)の祝いの最中に戦車がやってくる映像から始まる。その街で、2014年に最年少で市長に選出された1987年生まれの女性レイラ・イムレット(Leyla Imret)のドキュメンタリー。ドイツの製作、アジアンドキュメンタリーズの配信で視聴。

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 クルド人「山岳ゲリラ」の司令官だった父は、1991年にトルコ政府軍への投降を拒んで射殺され、母も捕らえられて拷問を受けたという。幼いレイラは国外に送られ、ドイツ・ブレーメンで叔母(父の妹)のもとで育つ。成長とともに自分の家族史を知るようになり、帰国を決意。2013年にジズレの母の元に帰る。

 彼女が市長になるまでの経緯は説明されていないが、若い女性が担ぎ出される時はだいたい組織にイメージ刷新が必要な時期だろう。レイラの母は娘が政治家になることには賛成しておらず、彼女の身の安全にも懸念を見せる。恐らく若くして亡くなった父の遺志を継ぐアイコンとしての求心力、女性が表に出ることを避けようとする気風の中、海外育ちの彼女に市民の顔として期待を寄せられるといった複数の要因があったのだろう。

 しかし、翌2015年に議会選挙でクルド人政党HDP(国民民主主義党)が躍進したものの、議会の変革は進まず、各地でクルド人暴動が起こる。政府による鎮圧でジズレの街にも9日間にわたる外出禁止令が敷かれ、その間にレイラは市長を解任される。ジズレから「内戦」が始まると海外メディアに対して発言したと報じられ、テロ組織のプロパガンダを広めた罪と反政府暴力扇動の罪で逮捕されたものの、証拠不十分でいったん釈放された。

 その後、2015年12月にジズレはPKKクルディスタン労働者党)「テロリスト」の掃討を名目に政府軍に包囲され、砲撃により300名が殺害されたとレイラたちは訴えている。彼女は有罪になれば10年以上の禁固刑が科せられる。撮影後、ジズレを脱してドイツに渡り、現在もドイツで活動しているようだ。

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