ジェームズ・ガン『スリザー』（Slither、2006）

　米国の田舎町郊外の森に隕石が墜落。そこに付着していた地球外生命体が孵化し……。

　地球外生命体に寄生されると、ペニスを思わせる触手が腹から生え、それを女の腹に突き刺すことで授精するという設定。同じようなパターンだしもういいか、と見るのを止めようとしたところで、地球外生命体の大量孵化のシーンが来て思わず最後まで観てしまった。

スリザー [Blu-ray]

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　鹿狩りの解禁シーズン到来に沸く町。各地からハンターが来て金を落とすことも期待されているが、それ以上に地元の狩猟愛好家にとって重大らしい。解禁前夜はカウントダウンパーティーが行われ、カントリーミュージックで盛り上がる。垂れ幕には2005年と書いてあるが、とてもそんな新しい話とは思えない。携帯電話もパソコンもなく、娯楽といえばテレビだった時代が設定されている。

　金髪に青い目のスターラ（エリザベス・バンクス）は高校の生物教師だが、男子生徒はいやらしい目で彼女を見てはノートに卑猥な落書きをし、同僚は教案を借りたいという口実で接近してくる。しかし彼女には年上の厳しい夫グラントがおり、仕事が終わると迎えに来た彼の車で帰宅するので、容易なことでは接近する隙はない。もともと彼女は17歳の頃、家庭の不幸のさなかにあった時にグラントに出会い、年上ですでに金と地位を得ていた彼のものとなった経緯がある。一方、幼なじみのビルは警察署長に昇任するが、まだ彼女に思いを寄せていた。

　スターラにベッドで拒まれて、ふてくされたグラントは酒場でやけ酒をあおる。そこに現れたブレンダは過去の交際相手の妹で、前からずっとグラントが好きだったと言いよる。二人は店を出て誰もいない森の中でいちゃつくうち、怪しい物体を見つけ、グラントはそこから飛び出して来た二本の触手に刺し貫かれる。

　グラントとスターラの夫婦の関係が奇妙で、スターラはトロフィーワイフとしての立場に甘んじてはいても、夫から心は離れつつあるように見える。その反面、単に夫の機嫌を取るというよりは、自らすすんでそれなりに「よき妻」であろうと努力しているようにも見える。二人の間に子供はないが、米国の保守的な家族観どおり夫に従う妻の役割は維持されている。

　翌朝、グラント（に寄生した地球外生命体）は仲直りを求めるスターラと濃密な朝を過ごし、彼女に愛情を覚えてしまったことで、繁殖役の女のターゲットを変更する。皆が鹿狩り解禁カウントダウンパーティーに夢中の間、乳児を抱えたブレンダは自宅でテレビを見ているが、夫が留守だと言って喜んでグラントを迎え入れる。触手を腹に突き刺され、白目をむいた彼女の表情はエクスタシーのそれだ。ふしだら女はこうして罰せられることになる。

　ブレンダが失踪した翌日、ビルたちはグラント家に事情聴取に訪れる。彼らが帰った直後、グラントが地下室に鍵を取り付けていたことを思い出したスターラは、鍵を壊して地下室に入り、大量の動物の腐った死体を目にする。そこに帰宅したグラントともみ合いになり、触手の腕で彼女は絞殺されそうになる。

　腐肉を食べて胎児に栄養を行き渡らせたブレンダは、巨大な肉球と化していたが、ついに爆発してエイリアンの子をまき散らす。とにかく大量の巨大ヒルのような生物が、恐ろしく素早い動きで口から人体にもぐり込もうとする。寄生された者はゾンビ化してグラント（に寄生した地球外生命体）の意識を共有するようになる……。

　その時、隣の敷地の一家も襲われ、思春期の娘カイリーだけがからくも難を逃れていた。カイリーは口から這い込もうとしたヒルを引きずり出した際、そのヒルの記憶の一端を垣間見、それが宇宙から飛来してグラントと融合したことを悟っていたのだった。「日本人の友人にやってもらった」といい両親に眉をひそめさせる派手なネイルアートが、ヒルの腹に爪を立てるのに役立ったという伏線。そしてビルたちと合流し市街地に向かったものの、そこもすでにゾンビに占領されていた。ゾンビたちはグラントの家に集い、彼の体に身を捧げて融合し、巨大な肉塊に化していたのだった。

　いかにも共和党支持者の多そうな、保守的な家族観が支配的な地域だが、ゾンビ化した中年女性に「共和党員を滅ぼしてやる！」という台詞が与えられている。しかし結局、婚外性愛は映画の中で罰せられ、夫に忠実な「よき妻」だったスターラと（ヒルの）挿入を許さなかった（たぶん処女の）カイリーが助かるというラスト。ビルが初恋の女性を金で意のままにした男から奪いかえす構図になるが、「力」の象徴たる警察署長という地位についているところからすると、家族をめぐる秩序回復で終わっているといってよいだろう。

　なお、犬だけが殺されるのは納得がゆかないという観客向けに、ちゃんとエンドクレジット後に猫ちゃんも出てくる安心設計。