マティス・バン・ヘイニンゲン・Jr.『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(The Thing、2011)

 51年版・82年版は共に未見で、原題のあまりのシンプルさにびっくり。エイリアンが出て来る映画だろうという程度の前知識だったが、後半はほぼ極地の基地という孤立した舞台での感染症パニックに展開するのだった。エイリアンの解剖を始めるので、絶対人間に感染すると大変なことになる未知のウイルスを保有しているだろうと思いきや、ウイルスどころか生命体そのものがまだ死んでいなかったという事実が判明する。

 人間に同化し擬態して機会を窺う「それ」が基地内にいることは分かっているが、誰が「それ」なのか分からない。どいつもこいつも怪しい上、「それ」と接触して体内に侵入される機会は全員に共通するので、基地内での隔離はほとんど意味がない。おまけに寄生された本人は「それ」が肉体を破って出現するまで自覚をもたないらしい。しかし、いやしくも科学者たる者、基地の外に未知の危険な生物を流出させてはならじ(でも自分だけは帰りたい)という疑心暗鬼の戦いが始まる。

 潜伏期間(?)は意外に短く、体を乗っ取られてからわずか数時間で肉体が変形を始める。しかも、一度擬態を解いた肉体は、また元通りに擬態することはできないらしい。氷漬けのまま何万年も地下で時機を窺っていたのなら、もう少し我慢強く、せめて月単位で潜伏すればたちまち地球を征服できるだろうにと残念である。

 触手を持ったぬめぬめの昆虫のような「それ」と、人体の結合というビジュアルの倫理的な不快さは絶妙。触手のある宇宙人が現実には存在し得ないというのは、どうも世界の根幹に対する信頼を揺るがすような気がする。やはり地球外生命体は、あくまで地球にいる様々な生命体の造形をベースに、かくのごとくあってほしいものだ。