清水崇『犬鳴村』(2020)

 都市伝説に取材したホラー映画。発電用ダム建設で水没した犬鳴村には、日本国憲法の通用しない前近代的世界が残ると噂される。

 橋のたもとの電話ボックスに、深夜2時になると電話がかかってくる。それに出た者は、通行不能となっている犬鳴村へのトンネルを抜けることができる……。
犬肉の処理・販売を業としていた村と、電力会社による村人の虐殺、さらに村の女たちは犬と交わっていたという流言に加え、児童精神科医である主人公の家系の秘密がしだいに明かされてゆく。

 村ごと虐殺したらいくら戦前でも隠しおおせるのは無理だろうとか、養子縁組に際して夫婦の片方にその事実を隠したまま手続きをするのは不可能だろうとか、突っ込みどころはいくつかある。

 村人が皆殺しにされた後、かろうじて幽閉された小屋で出産した若い女性が、赤ん坊を奪わせまいとするのに、赤ん坊の父にあたる男が「君に育てるのは無理だ!」と無理やり取り上げようとするシーンにも引っかかりを覚える。異形の存在と化した母親は、子育ての能力を否定され、子供から引き離されることになる。そして子供はトンネルの先の村で拾われて育てられ、犬鳴村の民の有する特殊な霊力は脈々と受け継がれてゆくのであった。