アミール・ムハマド『Apa Khabar Orang Kampung』(2007)

 DVDでアミール・ムハマド(Amir Muhammad)のドキュメンタリー『Apa Khabar Orang Kampun(Village People Radio Show)』(公式サイト)鑑賞。この監督は日本でもよく紹介されているが、私が観るのは初めて。

 タイ南部の村で、元マラヤ共産党員の老人たちにインタビューしたもの。マラヤ共産党と言えば、黎紫書「州府紀略」(短編集『山瘟』所収)には共産党に従ってジャングルに入った女たちが登場する。一人は出産と同時に死に、もう一人はその子を連れて州府(怡保/イポー)に帰る。やがて女は成長した子を連れて、タイへ共産党の投降を見に行くが、子供の父親には会えぬまま終わるという話。

 その話のせいもあり、共産党員と言えば中国系が大半だったというイメージだったが、マレー・ムスリムもかなりいたようだ。舞台になった村の住民はほとんどムスリムらしく、モスクからアザーンが聞こえる。小学校でもちょうどアラビア文字の学習中。インタビューを受けた老人のうち、一人は最後に華字紙「星洲日報」を読んでいる場面があったので中国系なのだろうが、あとはみなマレー・ムスリムのようだった。イスラム共産主義が両立するということに少し驚きを感じたが、「党員にも信仰は必要だ」と語っていたので特に矛盾しないようだ。中国では回族など宗教がどんな扱いになっていたのか、調べてみなければ。

 特にコミュニストの思想的な側面に触れるような部分は無く、生い立ちや共産党に参加してからタイに拠点を移し、投降に至るまでの状況や村での生活、家族についてなどが中心だ。日本やイギリスの占領下にあった頃、愛国的な者ならみな何らかの行動を取った、自分たちはそれが共産党だっただけなのに、独立後に敵視され交渉でも“ surrender or perish ”との要求を突きつけられるのは納得がいかない、というような意味のことを話すのがせいぜい。それでもマレーシアでは公開が禁じられ、DVDも国外への発送のみが許可されている。禁止の理由は監督がweb上で公開しているが、歴史認識に関する問題は敏感なところらしい。

 インタビューは時々ラジオのチャンネルを合わせるノイズによって中断され、タイ語(たぶん)のラジオドラマが挟まれる。ワヤンの語りのように音楽に合わせて物語を進めるのだが、タイの様式なのだろうか。内容はシェイクスピアの『冬物語』らしい。名前だけは王を Tong 、王妃を Chalida ,密通の嫌疑をかけられる相手を Panu と変えている。この部分の台詞は画面中央に英語で示される。王妃の密通を疑った王が彼女を幽閉し、その生んだ娘が自分の子であるにも関わらず荒野に捨てるよう命じる。子捨て役を命じられた男の " I am gone forever " というところまででラジオドラマは終わりとなり、『冬物語』の後半、大団円に至る部分には至らない。原作通りなら、親子の再会に加え、死んだはずだった妃が実は生きていたということになるはずだが。

 マレーシアに一度は帰還した元党員も登場する。ただ帰還して五年たっても身分証が発行されず、息子には「なぜ共産党なんかに入った」と責められ、結局はタイの家族のところに戻ることになったという。また、ジャングルでは子供が生まれても育てることはできず、みな近くの村に養子に出したそうだ。後に手元に引き取っても、なかなか関係がうまく築けるとは限らない。大団円には至れないのが現実のようだ。同じ監督に『 The Last Communist 』という作品もあるので、そちらもいずれ観てみたい。

 助監督は『Flower in the Pocket 』の劉城達(Liew Seng Tat)で、併せて彼の短編(5分程度)も収録されている。撮影の Albert Hue も『Flower〜』をはじめ、『ダンシング・ベル』『砂利の道』『グッバイ・ボーイズ』『鳥屋』など、多くの作品でカメラを回している。

 

 

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