陳翠梅『3 Short Films by Tan ChuiMui』(2006)

 『愛は一切に勝つ』のマレーシアの女性監督・陳翠梅(タン・チュイムイ)の短編三部をDVDにて。

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South of South(南國以南)06年、11分

 冒頭で1982年、マレー半島東海岸のクアンタンがクレジットされる。クアンタン近郊の小さな漁村のようだ。海岸で船が炎上している。祭りか何かかと思っていると、家族の食卓に不意に未知の親子が現れる。まだ幼い娘は近づいて黙って跪くなり、金の延べ棒を差し出す。静まり返った食卓。祖母は黙って立ち上がると、金はいらないとの手真似をしてボウルにご飯をよそってやる。現れた親子はベトナムからのボートピープルで、背に腹は換えられず金で飯を乞うていたのだった。それも長くは続かず、やがて警察の取り締まりが強化される。「人助けも許さないなんて、警察はむごいねえ」との祖母の台詞。

 「故事 陳翠霞」とのクレジットが出るので、監督(78年生まれ)の姉の記憶による話だろう。出演者にも姉妹か従姉妹と思しき名前が挙がっている。台詞は福建語。確か監督の一家は原籍が金門島だということで、たぶんこの祖母の世代くらいにマレーシアに移住して来たのだろうから、難民に対しても他人事には感じられないのかもしれない。

A Tree in Tanjung Malim(丹絨馬林有棵樹)05年、26分

 監督と同名の少女が、ちょうど18歳の誕生日にクアラルンプールにやって来る。相手をするのは年上の男(ピート・テオ)。ピート・テオの華語は、異様に聞き取りやすかった『私たちがまた恋に落ちる前に』の時とは異なり、普通に喋っている感じ。やっぱり『私たちは〜』ではシュールな空気を出すために意識的にああいうせりふ回しにしていたのかも。今朝、バスに乗り間違えたせいで白い花の散る木を見られた、という少女に、「お前に何が分かるんだ」という男。
 カメオ出演で『砂利の道』『ダンシング・ベル』のディーパク・クマーラン・メーナンが階段から下りてくる。他にもマレーシアのインディーズ映画人は協力し合って互いの作品の制作に携わっているらしく、どの作品もクレジットに色んな名前が出てくるのが面白い。

 

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Company of Mushrooms(蘑菇兄弟們)06年、30分

 大学の同級生らしい男たち四人が集まって酒を飲む。互いの結婚生活やかつて捨てた女の話など、話題は気まずい方向に進む。『太陽雨(Rain Dogs)』の何宇恒(ホー・ユーハン)監督やピート・テオなどが出演。こちらには同じく『太陽雨』で主人公が恋する姉妹の姉役・蔡恬詩がカメオ出演

 中の一人の娘が「Yuko」という名前なのだが、マレーシアでも英語名ならぬ日本名が流行ったのか?

 

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 後ろの二篇は尺が比較的長い分、ちょっとだれる感じがあるが、最初の「南国以南」は余計な台詞が無くて緊密な構成。