ミシェル・クレイフィ『ガリレアの婚礼』(Urs al-jalil/Wedding in Galilee、1987)

 パレスチナのミシェル・クレイフィ(Michel Khleifi)監督の1987年の作品、『ガリレアの婚礼』(Urs al-jalil/Wedding in Galilee)をビデオにて鑑賞。こんなVHSが出ていると思わなかったので、ツタヤで見つけて驚いた(ただしノイズがひどく一部字幕が読めないほどだったが)。

 クレイフィのドキュメンタリー『ルート181』(エイアル・シヴァンとの共同監督)はずっと観たいと思っており、都内でちょこちょこ上映されてもいるのだが、なぜかいつもスケジュールが合わず未だ観られずにいる。

 イスラエル占領下のパレスチナの村では、夜間外出禁止令が敷かれており夜を徹しての婚礼には許可が必要だ。何としてもアラブの伝統にのっとった村一番の婚礼を催したい、と願う父親は、イスラエル軍司令部に願い出て、「司令官を招待するなら許可する」との回答を得る。軍靴の下での婚礼なんてまっぴらだが、背に腹は代えられぬと父親は条件を呑むも、村人からは総スカンを食い結婚式ボイコット計画まで出る始末。おまけに若者たちは千載一遇のチャンスとばかりに司令官暗殺計画を練り始める。

 それでもどうにか当日を迎え、イスラエル軍の司令官たちも列席する。しかし当日もトラブル続き。イスラエルの女性兵士が気分を悪くしたのを始め、子供たちがうっかり逃がしてしまった馬は地雷原に踏み込む。女性兵士は女たちの介抱で無事回復、着替えさせてもらってアラブの娘たちと一緒に儀式に参加、すっかりとけこんでしまい、馬はおどしたりすかしたりで何とか地雷原から引き出すことに成功する。ただひとつ、新郎の身に起こった問題だけはどうしようもない。自分の体面ばかりを考えてイスラエル軍司令官を招待した父親と、他の村人たちの板挟みになって一身に重圧を受けていた息子は、とても床入りどころではなく、試してはみるもののどうしてもうまく行かない。とはいうものの、どうにか夫婦になってその証を客に示さないことには婚礼が終わらない。気を揉んだ父親は様子を見に部屋にやって来るが、手ひどく息子にはねつけられ追い出される。結局、花嫁が「処女性が女の名誉なら 男の名誉って何?」と嫌味を言いつつ、自分で済ませて証拠を作成、無事に宴は終わるのだった。

 この新郎になる息子は、父に頭が上がらないのに花嫁には横柄な口調で命令したりしている。それが男性としてだめかもしれない、となると一転、花嫁が解決策を講じるのを呆然と見守るだけ。二人で焦らず解決すればいいようなものだが、部屋の外で客が待ち構えているとなればそんな悠長なことは許されない。夫婦ふたりだけの秘め事のはずが明るみに出されてしまうのだから、処女性もさることながら男性機能も必要以上に重視されることになる。夜間の外出禁止令さえ解かれていなければ、招待客もさっさと帰宅していただろうに、父親が盛大な婚礼をと望んだのが裏目に出て、肝心の息子のプライドはずたずたになってしまう。

 結婚式の様々な儀式の様子が面白い。初夜の寝室へ入るとき、花嫁が青い葡萄を踏みつけるのは恐らく豊穣や多産の象徴としてなのだろう。フェリーニの『81/2』やセルゲイ・パラジャーノフざくろの色』にも同様のモチーフがあったのを思い出して、パレスチナも葡萄文化圏なのだな、と感慨を新たにする。また、女たちが「ロロロ…」と甲高い声を長く伸ばす感動表現が幾度も現れるが、何かの合図なのかとはじめは驚いた。イスラエルの若い軍人をからかう場面といい、女のしたたかさが印象に残った。