ディーパク・クマーラン・メーナン『ダンシング・ベル』(Chalanggai、2007)

 東京国際映画祭で『砂利の道』のディーパク・クマーラン・メーナン(Deepak Kumaran Menon)監督の最新作、『ダンシング・ベル(Chalanggai)』(公式サイト)。マレーシアのインド系社会を背景にしたタミル語映画。

 ダンシング・ベルとは何かと思ったら、古典インド舞踊で踊り手がつける鈴のついた足輪のことだった。主人公ウマを演じるのは『砂利の道』で末娘の役だったダルシニ・サンクラン(Dhaarshini Sankran)。この子、目鼻立ちが可愛いのもあるけれど、笑った顔がすごくいい。両親は離別していて、彼女と兄のシヴァ(ラメーシュ・クマール/Ramesh Kumar)を母親(カルパナー・スンダラージュ/Kalpana Sundraju)が供え物の花輪を作って一人で育てている。妹のウマは古典舞踊を習いたがっているが、とてもそんな余裕は無く、足輪を買ってあげるのが精一杯というところ。

 『砂利の道』はゴム園が舞台だったが、こちらはKLの郊外のようだ。マレーシア映画で面白いのは、若手の監督たちが製作面のみならず互いに協力してゲスト出演したりしているところだが、この作品でもドキュメンタリー作家のアミール・ムハマドが出演している。兄の勤める洗車場に来る客の役だったそうで、クレジットを見るまで全然気がつかなかった。それから、兄を追跡中に転んで腕の骨を折る守衛さんは、『砂利の道』のお父さん役の Gandhi Nathan だった。

 東京国際のサイトには Vimala Perumal 原作とある。元になった小説があるようだが、公式サイトでは" Story, Scriptwriter & Producer"となっているので、この映画のために書いたものかもしれない。

 父親は未練がましく妻の露店を訪ねてきたり、娘の前ではいい父親の役をしようとしてみたり、何だか情けないが憎めない。母親もそんな夫を冷たく追い払いながらも、ちらっと振り返って立ち去ったのを見届けたりしている。何だか四六時中喧嘩しているような兄妹だが、それも微笑ましいし、母親も決してヒステリックにならないのが良い。

 ところで、金が入用になった兄は、友人に唆されて不承不承引ったくりをする。中国系のおばさんが目をつけられるのだが、中国系だからといって皆がありあまるほどお金を持っているわけではあるまい。兄は自分を追いかけて怪我した老人に対しては、良心の呵責を感じているようだ。

 ところで、自転車修理の老人が歌っている北京語の歌、気になったので歌詞をメモして帰ってから調べてみた。

『夢醒不了情』(「夢は覚めれど尽きせぬ想い」とでも訳すか)という"老歌"らしい。一夜の夢も空しく、目が覚めてみればあなたはいない、一途に想い続けたのに、ああいずこにか君を探さん、というような歌詞。この部分の字幕は英訳から起こしたのだろうか。父親が一度は蒸発した家族の話だから、そのあたりを重ねているのだろうが、こういう風に北京語の歌が出てくるのは、マレーシアの観客にはどんな印象を与えるのだろう。

 最優秀アジア映画賞には選ばれなかったものの、スペシャル・メンションされた一作。関係者の来日が全く無かったのが残念だ。

 下は予告編。


 

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