Razif Rashid『Frontliner』(2021)

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マレーシアのCOVID-19映画。マレー語作品だがNetflixで英語字幕版が観られる。デルタ株が猛威をふるい、移動制限が敷かれたマレーシアで、前線で働く医師と警察官の三つの家庭をめぐり危機と喪失が描かれる。

「国家に奉仕する前線部隊」の一員としての職責と、家庭における父、夫、息子のそれぞれの役割のジレンマ、そして犠牲が主眼。インドネシア映画だと、父親のいない家庭だったり肝心な時に父が留守だったりしがちだが、マレーシア映画では男たちは父や夫の務めを果たさなければならないことになっている。

一方で母や妻は脆弱性を持った存在で、庇護を必要としている。警察官(坊主頭の方)の老母は持病があり、息子の任務を頭では理解しつつも、ソーシャルディスタンス云々を息子の冷淡さの表れと受け取らずにはいられない。

もう一人の警官の妻は、塾か何かを経営しており、オンライン授業なら月謝は払いたくないとごねる保護者と我慢強くやりとりし、なんとか教師に給与を支払おうとする。しかし「誰にも迷惑をかけないように」と我慢し続けた反動か、パニック発作を起こしてしまう。

医師の妻は妊娠中で、感染から身を守るため、夫が別に部屋を借りて勤務に当たる必要性も理解しており、衛生に注意して食事を届けたりしている。それなのに、なぜそこで手洗いに石けんを使わない!というシーンから予想どおりの展開に……。

登場人物はたぶんみなマレー人の設定で、リナと呼ばれる婦人科医を演じた女優がOoi(魏?)姓である以外は、俳優の名前を見る限りマレー系だった。夫が妻を導く、マレー・ムスリム的家族のあり方の理想が投影されていると見てよいのだろう。

医師や看護師、警察官の感情労働の側面が強調されている一方、罵られ理不尽なクレームをつけられても、我慢強く任務に当たる姿は、政府が国民を守り導くというモデルにも合致する。

病院の最も困難な時、医師が疲れ切った看護師たちに活を入れることで同時に自分を励ます場面がある。警察部隊の訓示とカットバックで重なるのだが、男ばかりの警察に比べ、男性医師が女性看護師たちを激励する姿は少々つらい。看護師が感動に涙ぐむのもまた……

題材から、俳優はほとんどマスク着用で演技することになるのだが、どうしてもクローズアップの画面が単調になる。そこはマスクなしに入れないだろうという場所で外して会話するシーンがあるのは、制作上の苦労を忍ばせる。