陳立謙(テディ・チン)『Kongsi Raya』(姜味關係、2022)

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マレーシアの旧正月コメディ。時は2029年、1998年以来初めて同時にハリラヤと春節を迎えるマレーシア。結婚10年を迎える華人の夫とマレー人の妻がテレビの取材に答え、結婚までの道のりを語る。

妻はグルメ番組のプロデューサーでその父は有名シェフ、夫は三代続く龍鳳茶楼の跡取り息子というカップル。毎日同じバスに乗るのが縁で交際を始めるが、様々な誤解の末、互いの父が反目し合い、なぜかマレー料理と中華料理の対決に至る。

夫婦と息子、そして互いの家族が仲良く食卓を囲み、ハリラヤと春節を一緒に祝っている場面から始まるので、ハッピーエンドが確約され安心して見ていられる。どちらの両親も10年後までぴんぴんしている。

夫の父(周堅華)は「マレー人と結婚してイスラーム教徒になるなんて絶対に許さん」「三代続いたこの店を誰が継ぐんだ」「マレー人は華人と違って政府の支援があるからのうのうと暮らしていられる」などと言いたい放題。

妻の父(ハリス・イスカンダル)はというと、一般論としては「民族差別はいけない、娘が愛した人と結婚すればいい」と言うものの、「茶楼もマレー風に変えてマレー人向けに商売すればよかろう」などと気軽に言う。さらに、娘の恋人が華人だと知るとパニックに陥る始末。

意地っ張りの父親同士に対し、母親がそれぞれたしなめて最後には解決に至る。「うちの息子が宝物なら、あちらのお嬢さんだって宝物なのよ!」という台詞をメモ。

典型的な華人とマレー人のステレオタイプに基づいた応酬が見られるので、マレーシアの審査に通ったのか? と驚くが、互いに理解し尊重すれば違いなんて問題にならない、という大団円で、これなら問題なく公開できるらしい。

マレー人の妻は華語が堪能という設定(女優さん自身は華語話者ではなさそう)、華人の夫は恐らく改宗したはずで、どちらかに同化するのではなく、互いに歩み寄って同じ食卓を囲む家族になるという理想が描かれる。

ハリス・イスカンダル演じる父は、恋愛時代には妻から「マレーシアの劉徳華」と呼ばれていたという設定で、「給我一杯忘情水~♪」と歌い出すところは、恐らくヤスミン・アフマドへのオマージュだろう。

結婚に伴う改宗については、具体的に描写されない。夫は茶楼を継ぐのであれば、豚肉の調理はできないため、ハラール中華として営業することになるのだろう。もっとも、ダメダメとはいえ兄貴が一人おり、家が絶える心配はないので、観客に安心感を与えているふしはありそう。

妻と妻の母の二人は、家の中(自室)のシーンでも髪を覆っている。ベッドでやすむ際に「スカーフは外さないのか」と夫に聞かれ、「今外すところ」の台詞で暗転するので、あえて髪を映さないのだろう。娘シャリファ役のInstagramを見ると、どの写真もトゥドゥンをつけている。

マレー人と華人カップルが登場する映画といえばヤスミン・アフマド作品だし、小説には Karina Robles Bahrin《The Accidental Malay》もあるが、どうも男が華人で女がマレー人というパターンが多いような気がする。

温祥英『有情人』にも主人公の妻がマレー人という連作短篇が含まれているが、逆に華人女性の視点からマレー人男性を書いた小説はこれまで読んだことがないような気がする。これは今後気をつけておこう。