P.ラムリーやサローマらマレー映画の黄金時代を築いたスターが、労働争議の一環として、解雇されたスタッフを応援するために開催した1958年4月のショーの一夜を描くミュージカル映画。
シンガポールにあったショー・ブラザーズ系のMFP(Malay Film Productions)が舞台。このショーのためにハリラヤ・プアサを祝う曲を書いた、ついては歌詞をつけてくれ、とショーが始まってからP.ラムリーに頼まれたジムことJamil Sulongは、楽屋で娘の子守をしながらタイプライターに向かう。
そこに一般人の二人が絡んでくる趣向。母を早く亡くし、幼い弟妹を一人で育てている少女は、悪漢から逃げる途中にうっかり楽屋に紛れこんでしまい、ミスコンの参加者と間違われてショーに出るはめになる。
貨物運搬工の青年デビッドは、恋人と結婚するために改宗したものの(ムスリム名はそのままダーウド)、肝心の恋人一家はマラヤ連邦の独立を受けてKLに移住を決めてしまう。彼も穴埋めで急遽出演を依頼され……。
シンガポールのノスタルジア映画かと思ったが、制作はマレーシア。マラヤ連邦独立直後で、まだシンガポールの先行きが不透明な時代。マレー語映画のベテランから若手までが並んで舞台では「Selamat Hari Raya」が歌われている間に、楽屋では一つの時代の終わりが示される。
老いたコメディアンが、故郷(tanah Melayu)に戻った方がマレー人も多いし可能性があるかも、などと話し合うシーンがある。会社との調停をトゥンクに依頼するか、それともリー・クアンユー弁護士はどうだ、いや彼は最近政治にのめり込んでいるからやめておけ、などという会話も。
『說不出的快活』がクレジットされていたが、劇中で流れるのは笠置シヅ子の『ジャジャムボ』。葛蘭の中国語版は1960年のはずなので、1958年の時点でシンガポールで聴かれたのは日本語の原曲なのだろう。序盤にもマレー系の芸能人たちが日本語歌謡を口ずさむ短いシーンがある。