ツァイ・ユィウェイ『シンガポール・グラフィティ』

 アジアフォーカス・福岡国際映画祭(於ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13)にて。
 90年代のシンガポールを舞台に、高校生が中国語ポップス(新謡)のカバーバンドを作る。「新謡」という術語は初めて聞いたが、エンドクレジットを見ると使用楽曲は巫啟賢(エリック・モー)らのものだった。彼はマレーシア出身で、台湾に渡ってからの活動しか知らなかったが、その前の80年代前半にはシンガポールで活躍していたのだそうだ。マレーシアからシンガポールを経由して台北へ、というのは華人歌手の一つのモデルコースになるのかもしれない。*1
 主人公は民歌餐廳の息子でギターが得意。相手役の女子高生は、母が厳しく人生設計をして、すでにアメリカ留学のレールを敷かれている。中国語ポップスが好きでこっそりカセットを買って聴いているが、母は家の中でも中国語を使うことを禁じ、中国語の歌など軽蔑している。
 いっぽう、悪友仲間の一人は運転手(マレー人)の娘に一目惚れ、彼女に華語の補習をしてもらうことにする。華人が「母語」の華語の成績がかんばしくなく、マレー人の少女に教えてもらうという設定は監督の皮肉か。
 また、ギターと中国語ポップスに熱中していた青年が、最後には英文学の教師になってしまうという展開は、現実に絡め取られてゆく様子を表すにしてもあまりにベタに感じられて驚いた。
 音楽をモチーフにした青春映画というのはともかく、ヒロインが心臓病という設定は「またか」という思い。母の激しい反対にもめげず二人は交際を続けるが、アメリカ留学の日が迫り…というのがクライマックス。最後は難病もののパターンそのままだが、エピローグで明かされるヒロインが用意した「サプライズ」というのはいくらなんでも、と呆れた。アジアフォーカスはこういうアジア各地のケータイ小説的なものも毎回選んでくるところが面白い。

原題:我的朋友,我的同學,我愛過的一切
英題:That Girl in Pinafore
製作年:2013
制作国:シンガポール
時間:115分
言語:中国語、英語
監督:蔡于位(ツァイ・ユィウエイ/Chai Yee Wei
脚本:Violet Lai
出演:陈世维(Daren Tan)、陈欣淇(Julie Tan)、胡佳琪(Jayley Woo)、胡佳嬑(Hayley Woo)、黄意轩(Sherly Ng)、文兆保(Kelvin Mun)、余珈庆(Seah Jiaqing)、邱殷龙(Kenny Khoo

*1:『想像の共同体』に出て来そうな話である。