洪凌『フーガ 黒い太陽』

フーガ 黒い太陽 (台湾文学セレクション)

フーガ 黒い太陽 (台湾文学セレクション)

 

 台湾のSF作家、洪凌の『フーガ 黒い太陽』(櫻庭ゆみ子訳、あるむ、2013)。パット・カリフィアのヴァンパイヤもの(昔『すばる』で紹介されていた一編しか読んだことはないけれど)のような作品かと思って読み始めたら、全く違うイメージで、目を白黒させながら読んだ。
 というのも、普段はSFやファンタジー小説をあまり読まないので*1ジャンル小説のお約束のようなものが理解できていないせいだと思う。紀大偉の作品はSF読みでなくてもすんなり読めたが、こちらはそうはゆかない。物語そのものは小説よりアニメで表現するのに向いているのではと感じた。設定されている世界はライトノベルにも出て来そうだが、文体が(私の思う)ラノベからはだいぶ離れているのも混乱の一因かもしれない。とはいうものの、後半になるにつれてラノベ的な文体に接近しているようにも思う。密度の高い文体での描写が続いたかと思うと、キャラクターの外貌を描く段になると割と定型に落ち着くようで、どのあたりに照準を合わせたものかと戸惑った。
 「台湾文学セレクション1」として刊行されているが、これはむしろSFやファンタジー小説の方面で話題になるべき本だろう。もっとも、母の呪縛の中で、ドリアン/ドーラのどちらが自分であるか揺れ動く「月での舞踏」のように、SFの枠には収まらない作品も収められていて、これは読みごたえがある。これもいきなり殺した男の傍らで主人公が独白を始めるという冒頭からわかるようにやはり強烈な作品で、結局まる一冊どのページを開いてもめくるめく極彩色の(闇までが輝く黒で塗られている)世界、熱のある時に見る夢のようだ。
 ところで、この「台湾文学セレクション」は出版社のサイトにラインナップが掲載されていないので、今後の刊行予定が知りたくて知りたくて仕方ない。もっとも、台湾文学館の出版助成リストを見れば、これから出る台湾文学作品はある程度予想ができるが。*2

 なお、洪凌の作品は台湾セクシュアル・マイノリティ文学シリーズ第三巻に小説「受難」(原題:獣難)が、第四巻に評論「蕾絲(レズ)と鞭子(ビアン)の交歓―台湾小説から読み解くレズビアンの欲望の流れ」(原題:蕾絲與鞭子的交歡——從當代台灣小說註釋女同性戀的慾望流動)が収録されている。

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[3]小説集――『新郎新“夫”』【ほか全六篇】 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 3)

台湾セクシュアル・マイノリティ文学[3]小説集――『新郎新“夫”』【ほか全六篇】 (台湾セクシュアル・マイノリティ文学 3)

 

*1:かつて『スレイヤーズ』や『フォーチュン・クエスト』は耽読したけれど。

*2:積ん読になっているシャマン・ラポガン、早く読まないと翻訳が先に出てしまう…。