アンソニー・チェン(陳哲藝)『熱帶雨』(Wet Season、2019)

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『イロイロ/ぬくもりの記憶』(2013)に続き楊雁雁と許家樂が主演。母子を演じた二人が、今度はシンガポールの中学校の華語教師と生徒として共演している。

楊雁雁演じる玲はマレーシア・タイピンの出身で、夫はシンガポール人だが、まだ国籍はマレーシアのまま。生活全般に介護を要する舅と同居、結婚して八年になり、何度も人工授精を試みるがうまくゆかず、夫も不妊治療に積極的ではない。

生徒の偉倫(許家樂)は武術に夢中で、憧れのスターはジャッキー・チェン(え?)、華語は成績が低迷し、作文を書かせれば誤字脱字だらけ。両親は留守がちでほとんどネグレクト状態らしい。補習を受けるうち、先生に次第に接近して……

設定だけで「絶対まずいことになる」と予感させ、そしてほとんどその通りになってゆく。公園でフリスビーをくわえて全身で喜びを表現しながら飼い主のところに駆け寄る犬に感じるような怖さがある。

幾度も映り込むテレビ画面がポイントで、マレーシアでは1MDBスキャンダルからナジブの辞任を求める抗議運動の波が起こっている。舅は武侠映画チャンネルがお好みで、胡金銓作品の引用が繰り返される。

この老人と少年が、子供のいない四十女を介して血のつながりのない疑似家族(老人の息子である夫は、携帯に電話してくることでその不在がより浮かび上がる)のように映るシーンがあり、あり得たかもしれない別の関係を示す。

しかし結局、それは雨季と共に過ぎ去るつかの間の幻想にすぎない。(それにしても、セックスの介在しないファンタジーは存在しないのだろうか?)

 

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