Zahim Albakri『Spilt Gravy on Rice』(2022)

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クアラルンプールの再開発地域の屋敷に暮らすマレー人の父と、それぞれ別々の人生を歩む5人の子供たち。父のもとに天使が訪れ、最期の時が迫っていることを告げる。父は急遽子供たちを晩餐に呼び集めようとするが……。Netflixで英語字幕配信あり。

劇作家Jit Murad(2022年2月に62歳で逝去)の同名戯曲の映画化。もともと2013年の公開を予定して制作されたものの、宗教的に問題を含む表現があるとの理由で審査に通らず、幾度かの編集を経て2020年に上映許可が下りたとか。コロナ流行でさらに公開は2022年に延期に。

Netflixで配信されているのは未検閲のバージョンで、マレーシア国内で上映されたものとは異なるようだ。

社会的には成功している次男はクローゼット・ゲイで、恋人と同居している。広いフラットにグッチのバッグが映ったり、見るからにパワーカップル。オープンにしてもよいと考えている恋人に対し、彼は「このままだと家族を傷つける、俺はストレートになって子供を作るんだ!」と宣言。

これほど直接的にマレー系のゲイカップルの日常がスクリーンに映る作品は初めて見た。5月13日事件への言及もごくわずかだが見られる。トランス女性のドラァグクイーンも登場、田舎の父に女性名に変えたことを告げて、「マレー人であることをやめるのか!」と罵られたと語る。(他の登場人物の反応からすると、典型的な非難らしい)

大学で英語を教えている三男は、演劇人の長女をシオニストと批判する文章を筆名で発表し、露見すると「マレー人の感情を代弁したんだ」と言い張る。彼の出来の悪い教え子 Amerul Affendi は、「単位ください」と執拗に要求し、拒絶されると「マレー人に何で英語が必要なんだ!」と逆ギレ。(気持ちは分かる)

四人の妻との間にそれぞれ子供をもうけた父は(もっとも、父の死に際して秘密が露呈するのが映画のお約束ではある)、強圧的な面と同時に、子供たちがそれぞれ異なる生き方を選んだことを言祝ぐ一面もある。

男児に対する性暴力が語られる(もっとも、当事者は自分が一方的な被害者とみなされることを拒否する。暴力を直接再現する映像はない)のも珍しい。当事者は現在クィア・コミュニティと関係が深いことが示唆される。

Jit Murad自身が『タレンタイム』に続いて死神もとい天使を演じているほか、Bernice Chaulyが長女の演劇人カルソム役で登場。彼女の助手がインド系女性で、二人の間にはそこはかとない雰囲気が漂う。


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